其の十【雪溶けの恋慕(甘)】幸村 ページ10
※主従関係
ピチャ。。ピチャ。。
雪が溶け、地面に水滴が落ちる音が静かに響いていた。
「ん、、」
Aが目蓋をぼんやり開けると、和室の障子から陽が差し込み、夜明けが近いことが分かった。
Aは真田家に仕える従者である。
今は遠征の任務で、幸村と行動を共にしている。
目的地に着くには二日はかかる為、昨夜は行く道の途中に見つけた民宿に泊まっていた。
泊まる際、幸村は部屋を二つ借りた。
Aははじめ、従者である自分が部屋を一ついただくなど贅沢で押し入れで充分だと幸村に話した。
だが幸村は、いつも世話になっているのにそんな不当な扱いは出来ないと首を横に振った。
幸村の隣の和室とは襖で仕切られているだけだった。
Aは襖を見つめ、
この隔たりが大きな壁であるように感じた。
従者がこんな感情を抱くことが許されないのは分かっている。。
だが、こんなにも近くて遠いのだ。
Aはこれ以上近づく事の出来ない関係性を憂いた。
もし自分が真田家の従者でなければーー
幸村と行動を共にすればするほど、締め付けられるように湧いてくる感情。
一人そんな考えを思い巡らすことも多くなった。
「幸村さま…」
募る思いがつぶやく様に言葉となって溢れた。
だがこの声も、地面に染み込む雪解け水と同じで響くことはないだろう。。
Aは静かに目を瞑った。
幸「呼んだか？」
「！！」
思いも寄らず、隣の和室から返ってきた声にAは一驚を喫した。
幸村がまだ寝ていると、勝手に高を括っていたのだ。
まさか起きて聞こえていたとは。
「ゆっ幸村さま、起きていらっしゃったのですか…」
幸「…ああ、そなたも早いな」
襖越しに柔らかい声が聞こえる。
優しい、大好きなあの声が。
この声を聞くだけで胸が締め付けられるようである。。
そして幸村が静かに語り出した。
幸「A、私は今朝恐ろしい夢を見た…」
「どんな夢ですか？」
幸「そなたを失う夢」
「！」
聞いた途端、居てもたってもいられなくなった。
Aは布団から起き上がり、そっと襖を少しだけ開け幸村の様子を伺った。
幸「夢だが、すごく怖かった」
仰向けに横になった幸村は、天井の一点を見つめながら話していた。
「……」
そばへ行きたい、、、
そんな思いに駆られたーー
其の十一【雪溶けの恋慕�◆杞�村→←其の九【※花見�◆杁鳩�
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作者名：まりる | 作成日時：2022年3月13日 21時
