其の十三【雨音追う夜(ほの甘)】吉継 ページ13
※夫婦設定
雨粒が地面を打つ音が鳴り響いていた。
「降り続いているね」
吉「ああ、そうだな」
夜もそろそろ耽ってきた。
だがまだ吉継は眠るわけにはいかなかった。
「まだ政務が残っているの？」
Aは文机に向かう、吉継の後ろ姿に問いかけた。
吉「ああ…もう少しで終わる」
「そう」
責任感の強い彼のことである。
今抱えている仕事をすべて終えるまで、眠らないつもりなのだろう。
そんな夫の姿を見て、
何か自分に出来ることは無いかとAは画策した。
ーー
コトッ
吉「！」
Aは吉継の前に、温かい甘酒を淹れた湯呑茶碗を差し出した。
「良かったらどうぞ。あまり無理しないようにね。お身体に触るわ」
吉「…すまぬ、感謝する」
湯呑みを手に取り、吉継は温かい甘酒を口にした。
吉「美味い」
「よかったわ」
甘酒のおかげもあったのか、そのあとの吉継の筆の運びは一段と早くなった。
Aもうとうとしながらも、隣で夫を見守った。
雨音は激しさを増している。
吉「A、先に寝ていて良いのだぞ」
「ありがとう。でも貴方のそばに居たいの」
吉「…そうか。ならば居てくれ、俺もその方が嬉しい」
ーー
吉「…終わった」
「お疲れさま」
山になっていた巻物は、見事に全て片付いた。
Aも筆に付ける墨を擦ったり書き上がった巻物の仕分けをしたりと、出来る限り支えた。
吉「お前の助けが無ければ終わらなかった。本当に感謝している」
「そんな、出来ることをしただけよ」
吉「俺は…俺には勿体ないほどの良き妻を持ったな」
吉継はAの頭を優しく撫でた。
手のひらの感覚が温かく心地良い。
それから吉継は優しくAを抱き寄せると、口布をはずし口付けを交わした。
二人の前では、煩い雨音も無力な雑音に過ぎなかった。
吉「愛している。共に眠り、良い夢を見よう…」
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作者名：まりる | 作成日時：2022年3月13日 21時
