其の十一【雪溶けの恋慕�◆杞�村 ページ11
「幸村さま、そばに行ってもよろしいですか、、」
幸「！」
幸村が息を飲んだのが分かった。
不躾な願いなのは百も承知だったが、考えるよりも先に思いが言葉になっていた。
幸村の悪い夢の話を聞いて、より一層近くに在りたいという気持ちが強くなった。
幸「ああ、構わぬ」
少しの間を置いて返事が返ってきた。
襖をゆっくり開けると、半身を起こした幸村と目が合った。
「申し訳ありません、、ご無礼をお許しください」
幸「いや、私もそなたの顔が見たかった」
「！」
幸「悪い夢を見た後だからかもしれぬな…」
そう言って幸村は困った風に表情を崩すと、自身のすぐ横を手で叩いた。
幸「そこに立っていては寒かろう。こちらへ来たらどうだ」
Aは促されるままに幸村の隣に座ると、掛け布を掛けてくれた。
「お気遣いありがとうございます」
掛け布は暖かく、
幸村の温もりを感じるようだった。
それからいくつか他愛もない話をし、そろそろ夜が明けて来た頃。
掛け布を畳み、幸村に手渡そうとした時だった。
受け取ろうとした幸村の手が不意に触れた。
幸「！すまぬ」
「いえっ！」
ほんの少し触れただけのはずが、お互い大袈裟なほどの速さで手を引っ込めた。
(どうしよう、、幸村さまにこの胸の高鳴りが伝わってしまったら、、)
Aは速くなった鼓動を落ち着かせようと、行き場を無くした手で胸を押さえた。
しかし鼓動はなかなか落ち着かない。
振り返って見ればこの状況。
お互い夜着姿でこれほど近い距離にいるのだ。
一度意識をしてしまったら、もはや緊張で保たない。
「朝餉を取りに行って参ります！」
Aは居た堪れななくなり、部屋を出る口実を幸村を見ずに告げた。
だが立ち上がったAの腕は、すぐに幸村に掴まれた。
幸「待たれよ」
「！」
視線がかち合う。
幸「この場で…申すべき事でないことは承知の上。だが、どうか私の募る思いを聞いてくれないだろうか」
「…はい」
Aは息を飲んだ。
掴まれた腕から幸村の体温が直接伝わってきて、熱を注がれるように体が熱くなる。
幸「私は…そなたを愛している」
「！！」
幸「この先もそばで、私を支えてほしい」
心臓が早鐘を撞くように高鳴った。
ずっと望んで、叶う事はないと諦めていた言葉が、確かにAの中に響いたーー。
「…はい、もちろんです。私も、、幸村さまをお慕いしていました。」
そう答えると、幸村は柔らかく笑った。
其の十ニ【雪溶けの恋慕・番外編】→←其の十【雪溶けの恋慕(甘)】幸村
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作者名：まりる | 作成日時：2022年3月13日 21時
