事勿れ主義【イルミ】 (ページ12)

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悲鳴をぐっと堪えて1歩、1歩、ゆっくり、確実に後ずさりをする。
さっきまでの安心感がバラバラと崩れていく。
ガチャ、とドアノブを回す音。
ガチャガチャ、ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ。
私は無我夢中にクローゼットの中に隠れる。
息を殺せ、静かに、気づかれないように。
今は自分の動悸ですら五月蝿い物で、邪魔だ。
がちゃり。
ドアが開いた。
こつり、こつりと足音が耳に届く。
どこか行け。どこか行け。お願いお願いお願い。
下唇を噛み、震えと悲鳴を抑える。
ぎゅっと目をつぶり、現実から目を背けようとする。
やだ、誰、怖い、やめて、こないで、出ていって、お願い。
やだやだ怖いよ。たすけて。
助けて、イルミ。
きぃとクローゼットの扉が開く。
「みーつけた、A」
聞きなれた声が鼓膜を刺激して、ゆっくりと目を開けると、さっきまで助けを求めていた人がいて、
恐怖が消え失せて、なんだかホッとして、
頭が真っ白になって、
涙がポロポロと流れてきた。
「え、え？」
滲む視界、それでもイルミが困惑しているのがわかった。
「ごめんね、ごめんね、イタズラのつもりだったんだ」
イルミはしゃがんで私の頭を撫でる。
「立てる？」
ふるふると頭を左右に動かすと体が宙に浮く。
否、イルミに抱えられる。
イルミは私をベッドにまで運び座らせると、自身も私の隣に腰を下ろした。
そして、私の頭をなでた後、自分の胸元へよせた。
無性に誰かに頼りたくて私はイルミの背中に腕を回す。
彼も私の背中に腕を回す。
疲れと安心感が頭をぼんやりとさせる。
「怖かった」
「うん、ごめん。まさかここまでとは」
「疲れた」
「そうだよね、よく頑張ったね」
「Aちゃん頑張った」
「うんうん、頑張った。今日はもう休んで」
私はそこで意識を手放した。