漂う ページ20
そこからの記憶ははっきりしない。
どこか客観的で、冷静な記憶が続いていた。
現実味もなく、自分の体を自分でない誰かが動かしているように思えた。
彼女の遺体は次第に崩れ、灰になってしまったらしい。休みなさい、と自室に送られたのはいつ頃か。
ずっと部屋の壁にもたれて何も考えていなかった。
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冷えた肌にじわりと広がる、温かい手の感触。
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傷口に染みる薬と、肌を締め付ける布地の感覚。
微かに聞こえてくる声。
どこか朧げな、記憶たち。
.
伊作「大丈夫？痛くない？」
そう声をかけてくる彼に、何かを返す気力もなかった。
気を遣って優しい手つきで傷を手当てする彼。
何度も殴られ、蹴られ、全身に傷を負った。
口角から引き裂くように付けられた傷は、先ほどで何も感じなかった。喋る時に口の端で何かがブツリと切れた感触がしても、痛くもなかった。
次第に熱を持ち始める。
呼吸をする時に空気が触れるのさえ、痛むほどに。
.
伊作「ごめんね、治せないんだ」
彼はそう言って私の傷がない方の頬を撫でた。すでに5、6枚ほどのガーゼをダメにしてしまった傷口は、縫われるのもまだだ。
今先生が用意をしていると聞いた。
しかし、傷は残るだろうと。
伊作「……君たちの世界でなら、こんな酷い傷も綺麗に治せたのかな」
そういい唇を噛む善法寺。
未来を知ってしまったことで、置かれた技術しか使えない劣等を感じているのかもしれない。
これから、人を死なせしまう度に、医療の発展がもう少し早ければ、と苦しむのかもしれない。
.
貴女「……ちがう」
.
気がつけばそう否定していた。
貴女「どんなに技術が進歩しても、治せない病気はあるし、新しい病気もある。怪我も同じように。
技術だけで人は生かせない。
大切なのは、生かそうとする気持ちと、生きたいと思う心なんじゃないの」
生きたいと言う気持ちがなければ、技術は無駄になる。
生かそうと思う気持ちがなければ、技術は功を成さない。
逆に、生きたいと、生かしたいと思う気持ちが技術を越え、人を生かすことがある。
.
貴女「この時代の人たちは、私たちより長く生きられないけど、大切に人生を生きてる気がする」
主観に塗れた思考。
それでも彼は、目を逸らすことなく私の方を見ていた。
伊作「……そうだよね」
彼は何かを言いたそうに口籠もる。
視線が泳いでいる。
私はわざと何も言わなかった。彼が何か言い出すのを、静かに待っていた。
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柑橘 - この作品が一番好きなんです！いつか最新される日を願っています…！ (3月13日 15時) (
レス) id: 9eaae6032f (このIDを非表示/違反報告)
もち米マン(プロフ) - 更新がありますように…！(*´･ω･) (6月11日 3時) (レス) @page26 id: 483e70a4e0 (このIDを非表示/違反報告)
めろんぱん - 更新待機中(*・∀・)つ (5月24日 21時) (レス) @page26 id: 407aeb7a76 (このIDを非表示/違反報告)
光陰矢のごとし(プロフ) - 初めまして。コメント失礼します。個人的に天女ものが大好きでこの作品を読ませていただきましたが、とても読み応えがあって、続きが気になります笑これからも更新頑張ってください！！ (2023年1月2日 22時) (レス) @page26 id: 04bb5063ad (このIDを非表示/違反報告)
にょきにょき(プロフ) - コメント失礼します。3回ほど読み返しましたが設定から内容ストーリーも新鮮で斬新でとても好きです。下級生、くのたまちゃん達が好きなので読んでいてとても嬉しい？わくわくしております！主人公ちゃんには幸せになって欲しいと思いましたね← 更新応援しております！ (2022年9月25日 9時) (レス) id: 7282b40af5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：紅葉夜月 | 作成日時：2022年1月7日 1時
