ゆらぎ、ひとつ ページ22
早々に逃げ出した彼を、視線で追いかけて私は裸足のまま、庭へと足を進めた。
砂利が足裏を突き刺したが、そんなことはどうでもいいことだった。
貴女「……口調が移ったかな」
先ほど激昂したとき、自然のミヨの口調を真似ていた。
無気力の渦に落ちた私では、怒鳴り上げることどころか立ち上がることすらできず、ミヨがその場にいて彼に怒鳴っているかのように、思いたかったのかも知れない。
あの子の声が聞こえる。
幻聴だとわかっている。
その竹藪の向こうから、ひょっこりと顔を出して、にっこり笑って「驚いた？」と軽口を叩く姿が視界に浮かぶ。
それと同時に、手の中で消えていく感覚も蘇った。
あんなことを言わせてしまった。
あんなことを言ってしまった。
静かな場所に来たことで、一度自分を見つめ直すかのように対話したことで、胸の内の感情ははっきりと輪郭を帯びる。
胸の奥が痛くなる。締め付けられるような痛みに、目の端が熱くなって、声が出なくなる。
貴女「ゔ、……あ゛っ、ごめっ……ごめん、」
涙が溢れた。頬を伝ってから落っこちた。
嗚咽を上げることしかできないまま、その場に座り込んだ。
、
.
.
何かの音がした。
後ろを振り返ると、黒い寝巻きに身を包んだ男がいた。
貴女「………土井先生」
土井「あぁ、どうしたんだ。泣いていたようだが」
貴女「別に」
ずび、と鼻を鳴らして去ろうとする私を、彼は呼び止めて向かい合うと、袂から取り出した手ぬぐいで涙を拭う。
貴女「やめてください……」
土井「どうしたんだ」
貴女「どうだっていいでしょう」
土井「信用がないのは知っている。それでも」
貴女「だから……！」
.
そう叫んだ瞬間、ぼろ、と涙が落ちた。
彼の手が頭を撫でて、「泣きなさい」と言った。
嫌なのに、癪なのに、赦しをもらって決壊した涙が次々と頬を伝う。
土井「貴女は嘘が下手だ。『殺す理由ができた』なんて、あんなの嘘だろう？」
貴女「ちが、」
土井「みんなわかってる。あの時の君の顔を見れば、誰だってわかる。あの時の君は、今にも死んでしまいそうだった」
涙を拭う手のひらが、大きくてあったかくて。
経験したことのない父親の愛の鱗片を感じさせた。
土井「……君に、本当に酷なことをさせた」
貴女「ちがう」
、
.
貴女「私は、違うんです」
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柑橘 - この作品が一番好きなんです！いつか最新される日を願っています…！ (3月13日 15時) (
レス) id: 9eaae6032f (このIDを非表示/違反報告)
もち米マン(プロフ) - 更新がありますように…！(*´･ω･) (6月11日 3時) (レス) @page26 id: 483e70a4e0 (このIDを非表示/違反報告)
めろんぱん - 更新待機中(*・∀・)つ (5月24日 21時) (レス) @page26 id: 407aeb7a76 (このIDを非表示/違反報告)
光陰矢のごとし(プロフ) - 初めまして。コメント失礼します。個人的に天女ものが大好きでこの作品を読ませていただきましたが、とても読み応えがあって、続きが気になります笑これからも更新頑張ってください！！ (2023年1月2日 22時) (レス) @page26 id: 04bb5063ad (このIDを非表示/違反報告)
にょきにょき(プロフ) - コメント失礼します。3回ほど読み返しましたが設定から内容ストーリーも新鮮で斬新でとても好きです。下級生、くのたまちゃん達が好きなので読んでいてとても嬉しい？わくわくしております！主人公ちゃんには幸せになって欲しいと思いましたね← 更新応援しております！ (2022年9月25日 9時) (レス) id: 7282b40af5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：紅葉夜月 | 作成日時：2022年1月7日 1時
