【スタレ】『開拓日記』 (ページ8)

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「………心は決まった?」

コクリ、と彼女が頷く。

『裏で』

そう告げる声には、1回目の勝負の時ほど自信が乗っていなかった。

まぁ、無理も無い。なぜなら、勝負はもう"3回目"に突入してしまっていたから。

＿＿そう、2回目の勝負で、1回目と同じ様に「視て」いたはずの彼女が、答えを外したのだ。つまるところ、2回目の勝負を終えた時点で、お互い1勝1敗のイーブンな状況に変わってしまった。

「1勝すれば良い」のは勝負が1回切りだと思い込んでいた先の状況と同じだ。だというのに、その時とは違い、彼女の表情からは、かなり緊張している様子が見て取れた。

彼女なりに心を落ち着かせようと努めてはいるのだろうが、汗や呼吸、表情筋や視線の動きが全てを物語っていた。

…そもそも他人の心の機微に聡い僕に対して、ポーカーフェイスはあまり意味を為さないんだよね。

人と言うのは「追い付く」ことに関しては、「前しか気にしない」から、プラスな力が働く。マイナスに転じることは殆ど無い。だが、「追い付かれる」あるいは「追われる」ことには恐怖を感じる事が多い。恐怖を感じれば、自ずと思考力や判断力は鈍りやすくなる。

＿＿だからこそ、この状況を作り出したわけだけど。

「なら、答え合わせだ」

顔に薄らと笑みを湛えて、彼女に向けていた視線を自分の手元に移す。ゆっくりと掌を退けて、コインの柄を一瞥してから、手の甲を＿手の甲に乗っているコインを、彼女の前へと突き出した。

『……表…』

消え入る様な声で、彼女が一言呟く。灯りの下、照らされるコインは表＿数字の側が上になっていた。

「ということは、僕の勝ちだね」

コインを滑らせて右手に収める。ニコリ、と笑って彼女を見やれば、少し悔しそうにこちらを見ていた。

「一応言っておくけど…あくまで運勝負、だからね?」

『…分かってる。流石、強いね』

素直で、純粋で、無垢な心を持った彼女の、悪態を吐く様が拝めるかと少し期待したんだけど。「賞賛」の気持ちの方が前に出てきてしまうのだから、彼女から「怒り」の感情を引き出すのは、思いの外難しいらしい。

『それで、私は何をすれば良い?…そういう賭けだったよね』

「物分かりが良くて助かるよ。…けど、随分と引き下がるのが早いんだね。あんなに賭けの報酬に食い付いていたのに」

彼女の切り替えの早さに内心驚いて、思わず問い掛ける。すると彼女は、今日出会った時と同じく、花が開く様にふわり、と笑った。