【スタレ】『開拓日記』 (ページ42)

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「…僕はいつまでこうしていれば良いのかな」

半ば抗議のように聞こえるその声音。

アベンチュリンが対処に困っているのは珍しいな、とクスリと笑みを溢しながら、彼の肩口にグリグリと額を擦り付けて、抱き締めている腕の力を強める。

『……もうちょっとだけ』

やれやれ、とでも言うような溜め息が側(そば)で聞こえてくる。観念したようだ、と思ってクスクスと笑えば、彼の手が伸びてきて、髪を一房掬われた。

擽ったさに顔をそちらに向ければ、そのまま流れるようにその髪の束にアベンチュリンがキスを落とす。

目を閉じて行われたそれは、まるで神に祈りを捧げているみたいで。

＿何か、神聖な誓いでも立てているようで。

思わず釘付けになって固まっていると、パチリと開かれた瞳(め)が、ゆっくりとコチラに向けられた。

ふ、と感情を落としたような、見慣れない顔つき。

＿＿無表情に近いのに、どこか扇状的に思えるのは、思わず見惚れてしまうその瞳と、整った顔のせいだろう。

薄らと口角を上げて、彼が嫣然(えんぜん)と微笑(わら)ったその瞬間。

ぶわり、と顔が熱くなった。

慌てて彼から距離を取れば、アベンチュリンは悪戯が成功した子供みたいに、笑い声を上げた。

「はは、良いね。驚いていて…それに、訳が分からない、って顔だ。なんなら、僕が先に聞きたいのだけれど。さっきの行動の意味。＿＿けど、聞かないであげよう。今詮索するのはきっと悪手だろうから。…それに、きっと君の事だ。なにか視てしまったとか、識ってしまったとか…、そんなところだろう」

全て見透かしたような目が、撓(たわ)んで、細められる。

『そう思ってるなら、なんでさっきあんなこと…』

恨みがましく呟けば、彼は「あんなこと、ねぇ」と口にした。

「そんなに刺激的な行為をした覚えはないけど、意識してくれたのなら何よりだ。ただ、君は他人(ヒト)の行動を咎める前に、自分の行動を振り返るべきじゃないか。…今後の身の振り方を考える上でね」

…確かに、抱きついたのは性急だったかもしれない。

だとしても、そもそも自室に勝手に入り込んでいる人に言われたくはないのだが。

不法侵入でカンパニーに訴えてやろうか。……いや、彼の事だ、何かしら手回ししているに違いない。

反論したい気持ちをグッと堪えて、彼の次の言葉を待った。

「それで…何で『あんなこと』をしたのか、だったかな」