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「これ以上美味しいものを飲めるのかい?…それは楽しみだ」


僕がニコリと微笑めば、彼女は『任せて』と言って胸を叩いた。

会話が一段落ついたところで、彼女はカウンターに置かれたままの空のグラスを流しに持っていくと、慣れた手付きでそれを洗い終え、水を切ってから皿用の布巾で水滴を拭って、元の位置に戻した。

その手際の良さに感心しながら、口を開く。


「カクテル作りの時から思っていたけど…、かなり手慣れているね?」


『そうかな?…まぁ、アベンチュリンが初めてのお客さんって訳じゃないからね』


「ふぅん」


そりゃあそうか、と思いつつもどこかモヤ、とした気持ちが湧き上がる。その(わだかま)りを不思議に思いながら、続く彼女の言葉に耳を傾けた。

その発言に、心が揺さぶられるとも知らずに。


『あ、でもね、わざわざ自分から誰かを呼んで振る舞うのは初めてだったよ。…だから、ちょっと緊張しちゃった』


そう含羞(はにか)んで微笑(わら)う彼女に、思わず見惚れてしまう。


うん。

いや、うん…バレンタインの時から薄々思っていたが、彼女は天然タラシなのかも知れない。

友人とは言え、まだ日の浅い特別な関係でも無い相手に、物を贈ったり、飲み物を振る舞ったり、体調を(おもんぱか)ったり。

彼女は、表面的な繋がりしか作らない僕に対しても、距離感がおかしい。無自覚に人を深入りさせてくる_人の興味を誘ってくる。

多分本人は気付いていないのだろうが__今まで何人が虜にされた事だろう。

今ごろ酔いが回ったのか、はたまた酔いが醒めたのか。

今は彼女の事だけで頭がいっぱいだ。

あの"悪夢"を一時的に忘れてしまえるほどに_あの悪夢から完全に覚醒させ(醒まし)てくれるほどに…やはり彼女は魅力的な存在なのだと、僕は改めて心の中で思うのだった。

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作者名:シメ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/b78ff5dd8c1/  
作成日時:2024年2月1日 19時

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