【スタレ】『開拓日記』 (ページ37)

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『どうぞ』

目の前にグラスが差し出されて、我に帰る。またいつものように口元に笑みを浮かべれば、彼女は僕の表情の変化に気付いた様子も無く、頬を掻きながら目線を彷徨わせた。

『…気に入ってくれると、良いな』

置かれたグラスに目を遣れば、少し見分けにくくはあったが、液体は3層に分かれていた。透明に近く艶のある白、少し薄まった金、彼女の瞳を模した＿蜂蜜を溶かした様な黄色。

グラスの縁には可愛らしい小鳥が乗っていて、思わず口元が緩む。それを隠すように、グラスを手に取り、まずは軽く一口口に含んだ。

口当たりはかなりパンチがあり、しつこ過ぎはしないものの味付けもかなり甘くなっていて、後味が残る。コレは子供が＿いや、それこそ彼女が好みそうな味わいだ。

まだグラスに残っている液体を揺らしながら、層が混ざり合う様を眺める。そうして改めて、グイ、とグラスを傾け、一口、また一口と飲み進めていく。

僕自身甘い物を好んで頼む方では無いので、初めの一口で少し身構えたが、その警戒心を上回るほどの、調和の取れた味わい深さ。

後味の＿この余韻に浸っていたいと思う程に…飲み切ってしまうのを惜しむ程に、先に飲んだモノとはまた違った美味しさを持つ代物だと言えると思った。

僕が飲んでから何も言わないのを不安に思ったのか、『あんまり美味しくなかった?』と眉を下げて顔を覗き込んで来る彼女に、笑いかける。

「ううん、美味しいよ。…ただ、その名の通りの味だなぁと思ってね」

『それってどういう…?』

「はは、それは飲んでみれば分かるんじゃないかな」

感想を言うのはどこか恥ずかしくて、誤魔化した。

だって、彼女を評してるみたいだったから。

見せ物として、大勢の前で声高らかに彼女の価値を叫ぶことはできるかもしれないが、彼女ただ1人の前で、彼女本人の評価を言えるほどの肝は、今の僕は持ち合わせていなかった。