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「…………はッ、…ふぅ、夢か…」
酷い悪夢を見て、ドリームプールから飛び起きる。
…いや、あれは悪"夢"などという優しいモノではないのだけれど。
忘れたくても、忘れられない記憶。
否、忘れたくはないが、思い出したくもない記憶…という方が合っているのだろうか。
大事な人がいなくなる、大事な人を置いて逃げる＿＿そんな記憶。
息を整えてから、部屋と自分自身の格好を確認する。
＿＿そういえば、ついさっき夢境で「死」ねるか試したんだったか。
頬を伝う汗を拭って、鏡の前へと向かった。
「…酷い顔だ」
正しく顔面蒼白。
あとは…、隈が少し深くなった程度か。
幸いにも髪は乱れていなかったため、身嗜みを整えるのは比較的時間が掛からずに済ませられそうだった。
部屋の時計を見遣れば、夜の10時。
今日のカンパニーへの定時報告は終わっているし、明日のミーティングも確か午後からのはず。
寝直す時間は十分にあるが、そういう気分にはなれそうもない。
気晴らしに何処かに出かけようかと思ったが、今騒がしい場所に行くのは少し気が滅入りそうだ。静かで落ち着いた＿＿何も繕わずに居られる場所に行きたい。
そこまで思って、ハァと溜め息を吐く。
「そんな場所、此処には無いよな……」
そもそも繕わずに居られる場所など、もう、この世界の＿否、この宇宙の何処にも無いのかも知れないが。
どうしたものか、と考え倦ねて居れば、コンコンコンと扉を叩く音がする。勿論のことながら、ルームサービスを頼んだ覚えはない。警戒しつつ、扉からの声を待った。
『アベンチュリン、居る?』
張りがあって、真っ直ぐで、澄んだその声には、聞き覚えがあった。彼女＿星穹列車のナナシビト＿だ、とすぐに気付く。だが、すぐにはその声に応えず、「こんな時間に此処を訪れる理由」は何だろうか、と頭を働かせた。
何度かの会話を通して分かった事だが、彼女の行動原理は実に単純だ。助けるべきは助け、救いたいと思えば救う。やりたい事をやり、したいと思った事を為し遂げる。彼女は意思の赴くままに動く。
だが、単純だからこそ突発的な行動が多くて読み切れない。…今回も、その一例になりそうだった。
「居るけど、どうかしたかな」
特に考えもまとまらないので返答すれば、『良かった』と少し弾んだ声が返ってきた。
『あのね、カクテルとかって飲む?』
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作者名：シメ | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/b78ff5dd8c1/
作成日時：2024年2月1日 19時
