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「くっ…」
重く、ズキズキと痛む頭を押さえながら、ゆっくりと息を吸って吐き出す。
僕の不調とは裏腹に陽気な音楽の流れるエディオンパークには、美しい夢に浸る幸せそうな顔の人しかいない。
__あぁそういえば、バレンタインデーに、彼女に紅茶を手渡されたのも此処だったっけか…。
『"アベンチュリンなら"此処に居るかな、って思って』と。
そう言っていた彼女に、同意した僕自身。
朦朧としてくる意識の中、思う。
こんな状況下でなければ、__この空間を楽しめていただろうか、と。
ふと、「夢の並び替え」の台が目に止まる。
頭はガンガンと痛み続けている。
それに、"それ"をやったところで、結果も予想できる。
一刻を争うこの状況下で、やる事ではない。
…けど、賭けずにはいられなかった。
コインを1枚投入口へ入れる。
軽快なメロディを奏でながら、スロットが勢いよく回り出した。
その様をぼう、と眺めていれば、スロットの勢いが弱まっていく。そうして、ピタリと止まったそこには_スライスされたレモン1つに7が2つ_2等が表示されていた。
まさか、と目を瞠く。
だがすぐに「カンカンカン」と音がして、絵柄が水色の髪を持つ女性_ロビンだろうか_に変わった。
台から放出されたコインが辺りを舞い、景品の取り出し口に黒いカードが現れる。
「"尊い幸運児"のブラックカード」…そう刻まれたソレを手に取った。
「はは、こんな状況でもやっぱり僕は"
思わず漏れた、乾いた笑い。
"それ"に元気付けられた訳ではないが__"幸運"はまだ僕を見捨てていないようだ。
それが分かったのは、良かったかもしれない。
___風前の灯火に思えるその魂は、まだ輝きを失ってはいなかった。
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作者名:シメ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/b78ff5dd8c1/
作成日時:2024年2月1日 19時