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『…何だっけな。アル…?うーん……』
私が悩んでいると、不意に上から声が掛かってくる。
「マイフレンド、何か悩み事かい?」
ポンと肩を叩かれ、顔を上げればちょうど考えていた人物が目の前に居た。『ビックリした』と思わず口にすれば、目の前の人物はいつものように微笑んだ。
「君に珍しく暗い表情をしていたから、どうしたのかと思ってね。邪魔だったかな」
そう言って顔を覗き込んでくるので、一歩引いて距離を取る。知り合って間も無いというのに、この距離感はおかしいだろうと感じながら、近付いてくる彼に待ったを掛ける。
『いや、ちょっと待って。今思い出してる所だから』
その場で、はて、と首を傾げる彼を置き去りに、額を抑え、ブツブツ呟きながら、記憶を探る。
『アル、…は違うんだよなぁ、あー…アルジェンティしか出てこない…』
「誰かを思い出そうとしてる?」
呟きから察したらしい彼に、沈黙を返せば、彼は眉尻を下げて嘆いた。
「マイフレンド、無視はひどいんじゃないかなー…」
彼は、私の事情に構う事なく、「ねぇねぇ」と言いながら距離を詰めてくる。
流石に耐えきれなくなって、思わず声を荒げた。
『…貴方のこと思い出してるの!』
「は、僕…?ん、あぁ、ひょっとして君……」
僕の名前を忘れたのか、と。
そう言われる前に勢いよく遮る。
『違う、覚えてる。…今ちょっと頭の引き出しが開かないだけで、忘れた訳じゃ無いから』
「ふぅん?じゃあ呼んでみてくれるかな」
逸らしたくなる気持ちを抑えながら、目を泳がせまいと彼を見つめた。対する彼は、値踏みでもするような視線を向け、自分の名前を呼ぶよう促した。
『は、始まりがアなのは分かってる!…もうちょっとだから!』
振り絞るように声を出せば、笑いを含んだ声が返ってきた。
「__他の男の名前と、間違わないでくれよ?」
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作者名:シメ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/b78ff5dd8c1/
作成日時:2024年2月1日 19時