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『やっぱり。…来て』
そう言う彼女に腕を掴まれ、部屋の中へと連れ込まれる。
華奢な身体の何処にそんな力があったのだろう。
そんな呑気な事を考えていると、視界がグルリと回る。ほんのりとした温かみと柔らかさ。そして、ふわりと香る彼女の匂い。
どうやら、ベッドに少し手荒に投げ捨てられたらしい。
「えぇと、マイフレンド…」
状況が理解出来ず困惑して身を起こせば、肩をトンと押され、ボスンとベッドに戻される。
『病人は大人しく寝てて』
彼女に靴を脱がされ、有無を言わせず布団を上から被せられる。先程まで彼女がいたのであろう布団からは温もりが感じられるし、包み込んでくる匂いは彼女のもので酷く安心する。
思わずこの状況に浸りそうになって、慌てて意識を覚醒させた。
「マイフレンド、その」
『冷やすモノ、持って来るから』
「A!」
状況の説明も無しに立ち去ろうとする彼女を呼び止める。思わず大きくなった声。彼女は少し驚いた様に、僕を見た。
『どうしたの?…あ、何か欲しいモノでもある?』
首を傾げる彼女。
何を言っているんだ、彼女は。
状況が理解出来ない。脳内処理が追い付かない。
……彼女は何を考えている?
僕が黙ったままでいると、彼女が口を開いた。
『ねぇ、アベンチュリン。…こういう時こそ、"利用"すれば良いんだよ』
弱味を見せるのは、よくない。
賭場ではそういう奴から負けていく。
自分の手札が弱くたって、さも強い様に振る舞って賭けに出る。偽ってこそ、なのに。
__なのに、君には敵わない。
「利用、ね。はは…」
張っていた糸が緩む。ドッと疲れが押し寄せて、ベッドに身を預けた。
「なら少し頼らせてもらうよ…」
そう言うや否や、僕の意識は遠のいていった。
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作者名:シメ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/b78ff5dd8c1/
作成日時:2024年2月1日 19時