【スタレ】『開拓日記』 (ページ16)

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『また、誰か唆してきたの?』

出会い頭、臭いに敏感な彼女が言う。

「はは、いつもの事だろう?あぁ、それとも嫉妬でもしてくれたのかな」

眉を顰めて、僕を見つめる彼女。大抵の人は、僕と話す時"そういう顔"をする。警戒、忌避、侮蔑、非難…そんな負の感情を示す顔。

色んな人から向けられて、もう見慣れた筈だった"それ"を、彼女から向けられる時だけは＿＿何故か、胸が痛む。

…でも、これが僕だから。

敢えて大仰な態度を取って、相手を揶揄って、嘯いて。軽薄で、見栄っ張りで、見掛け倒しで。本心を隠して人と接するのに慣れてしまっている。この"在り方"は、もう変えようが無かった。

『…そういうのじゃないって、分かってるくせに。私に会いに来る時は、そういう臭いは消してから来てっていつも言ってる』

「うん。そうだったね、申し訳無い。…失念してたよ」

口では謝りつつも、いつもの様に悪びれもなく薄笑いを浮かべれば、彼女はハァと溜め息を吐いた。

『…まぁ良いや。シャワー浴びてきて』

いつもならもっと罵声が飛んできている所なのだけれど。今日の彼女は随分と寛容らしい。

彼女の背が遠ざかる。彼女には、もう僕の姿は映っていない。いつもなら、僕に掛けてくる言葉は＿それが小言だとしても＿もっと多いのに。

…もしかして、愛想を尽かされてしまった?

ふと、胸に不安が過る。

それだけは、絶対に。

…彼女にだけは、絶対に。

＿＿愛想を、尽かされたくない。

衝動的に、去る彼女の肩を引き留めた。そのまま自分の方へと引き寄せて、後ろから抱き締める。

『ッちょっと、アベンチュリン！何…っ、!』

突然の事に、事態をすぐ理解できなかった彼女は、振り払えなかった僕の腕の中で、ジタバタと暴れ騒ぐ。僕は、ハ、と震える様に息を吐き出した。途端、ピタリと彼女の動きが止まる。

息苦しい。

辛い。

胸が、痛い。

今にも、張り裂けてしまいそうだった。