Ep.1-2 ページ25
『あ、いえ…ただ、懐かしい匂いがしたので…。』
「懐かしい匂い、…ですか?」
目の前の男性は首を傾げて尋ねた。
『いや、すみません!勘違いです。
急に引き止めてしまってごめんなさい…。』
頭を下げて謝ると、顔を上げてください、と声が掛かった。
「あぁ、いえ、良いんですよ。
別にこれといって急ぎの様も有りませんし。」
聞く限り全く声も違うのに…と、
内心申し訳無く思いながらこの際だから、と口を開いた。
『あの、失礼を承知で一つお願いしても平気ですか…?』
「えぇ、…構いませんよ。」
すんなりとした返答に良い人だなぁ、と感慨に浸る。
意を決して、言葉を発した。
『___だ、抱きしめても良いですか…?』
「……えぇと…。」
上目遣いで顔を覗き込むと、
その男性は困った様に眉を下げた。
『あー…やっぱり無理ですよね…ごめんなさい!』
「……いえ、…良いですよ。」
『ですよね…ってエッ?!い、良いんですか?』
「えぇ、…何か切羽詰まった様子ですし。」
何処かこの状況を面白がっている様に見える。
自分自身の行動は棚に上げて、
この人もしかして頭がおかしいのだろうか、と考えてしまった。
『失礼します…。』
背に手を回して軽く抱きしめると、
仄かな酒の香りとよく嗅いだ事のある煙草の匂いが
直で感じられた。
見た目の割に随分と体格が良い事も分かった。
「…どうですか?」
『う〜ん…何とも…。』
「…そうですか。」
流石にずっと抱き締めているわけにもいかないので、
頃合いを見てそっと離れた。
『…すみません、何か無駄にお時間を頂いてしまって。
でも…あの…、何で、私のお願い受けてくれたんですか?』
「…ただの好奇心ですよ。」
くい、と眼鏡を上げ、薄く笑う。
『そうなんですね…何であれ、ありがとうございました。』
腑に落ちない感情を抱きつつ、その場を後にした。
「……まだあの姿で会うわけには行かないのでな。」
呟かれたそれは、誰に届くわけでもなく、宙へ消えた。
157人がお気に入り
「名探偵コナン」関連の作品
この作品を含むプレイリスト ( リスト作成 )
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:シメ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/b78ff5dd8c1/
作成日時:2021年5月15日 2時