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「あー伊沢さんがめっちゃ好きそう」
『はい…？』
「いやなんでも無いっす。川上です」
『さ、佐々木です』
彼女がオフィスに来た。
川上と山本とは初対面になる。
彼女は緊張しているらしく、いつもより大人しい。
『私の事は気にせずお仕事して下さいね』という彼女の気遣いで溜まっている撮影をする事にした。
「伊沢さん達撮影ですもんね、覗きます？」
『へ？いや、邪魔になると思いますし…』
「あの人達、クイズになると周り見えてないんで」
大丈夫です、と川上は悪い顔をしながら撮影部屋の扉を静かに開けた。彼女も恐る恐る川上の後ろを着いて行く。
静かに扉は開いたが視界には入る位置で、やっぱり川上は悪い顔をしていた。
俺は彼女の容態だけを心配していたが、大丈夫そうだ。
この日は福良が問読み、俺と渡辺須貝が答える方で、普通の早押しクイズの撮影であった。
淡々と撮影が進んで行く中、彼女の目は輝いていた様にも見えた。
が、彼女も休学とは言え東大生で、その知識がある事を俺達はすっかり忘れていた。
「問題。
イタリア語とフランス語の音名の由来になったことで知られている中世の賛歌のひとつは、」
『…、聖ヨハネ讃歌…、あっ』
「あっ、」
『やっちゃいました…ごめんなさい』
ペコペコと頭を下げて懺悔する彼女はやっぱり才能が有るらしい。隣にいる川上も驚いていた。
「いや〜、まさかあれ答えるとは。びっくりしたよ」
『ごめんなさい、邪魔してしまって』
「全然！やっぱりさ、俺はAちゃんと一緒に仕事していきたいと思っちゃった」
『え？でも在学中ですし、わたし、』
「そういう人もいるよ、だから大丈夫。
俺はAちゃんをずっと待ち続けるから」
撮影後、少しだけ2人きりの時間があった。
告白の様な言葉に彼女は少し照れ気味でありがとうと答えた。
「いやぁ、伊沢さんも春ですなあ」
「聞いてたな、こうちゃん…。そういばあの動画Aちゃんが話したところカットした？」
「え？福良さんが編集してたけど…あの人分かんないですよ」
俺の嫌な予感は的中して、アップされた動画にはしっかりと入っていた。
コメント欄は、「誰だろう？」「新しい子？」「声めっちゃ可愛い」等と溢れかえっていた。
「伊沢はあの子入れる気満々だしいいかな〜って」
福良の言い訳がオフィスに響いたのは彼女が病院へ戻った後の話。
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作者名：かおる | 作成日時：2021年9月19日 0時
