63.焦げた陽炎たち ページ24
｢泣いて､ない｣
｢そっか｣
彼は小さく笑った｡そして私の顔に添えられていた温もりはゆっくり離れていく｡私はまたシーツを口元に手繰り寄せると､体の向きを変えて彼にそっぽを向いた｡
今更だけど､あまり情けない姿は見せたくないのだ｡
｢お前の､すきにすればいい｡
……私もすきにやっていく｣
｢ん､そうだね｣
グイッ！
｢るい｣
名を､その声で呼ばれた｡心臓が痛いほど跳ねるのと同時に力強く身体ごと顔を引き寄せられて私は思わず目をつむる｡
｢───また逢おう｣
鳥のさえずりの様な声が私の身体を支配した直後､瞑ったままの瞼に温かくて柔い感触を感じる｡
鳥の､戯れのキス｡
そして目を開けた時には､その鳥はもうどこにもいなくて｡
シーツの上に一枚の赤い羽根だけが残されていた｡
｢………ばーか｣
羽根を摘んで､苦し紛れに悪態をついてやる｡
私はまだ微かに温もりが残るシーツの中に埋もれると､彼の香りを纏った赤い羽根を鼻先に寄せながら身体を胎児のように縮こませ､自分の身一つを強く抱いてまた1日深く眠った｡
｢何？独立して自身の事務所を立ち上げるだと？｣
｢はい｡あれ､何ですその顔｡もしかして私がいなくなると寂しいんですか？ちょっとそんなこと言わんで下さいよ〜貴方から離れられなくなっちゃう｣
｢そんな戯言一言も言っとらん！｣
｢あはは､すみません｣
｢全く､お前という奴は……｡
後援は俺がする｡何か必要なことがあれば言え｣
｢え､いいんですか？｣
｢俺以外にお前のような厄介者の後援をしてやれる者などおらんだろう｣
｢ふはは､よくわかってらっしゃる……ありがとうございます｡すっごい嬉しいです｣
｢……お前は､何をそんなに急いている｣
｢私…がですか？｣
｢ああ｡お前にしろ､
｢言ってくれますね〜……貴方も他人のこと言えないでしょう？｣
｢む……確かに､そうだな｣
｢ふふ……貴方も私も､アイツも｡やっぱり似た所があるんでしょうね｣
｢そうか？｣
｢そうですよ｡例えるなら……｣
ゆらゆらと陽炎のように危うく揺れて､
強欲に求めて､生き急いで､欲しいものに焦がれる｡
そう､まるで私たちは───────
｢“焦げた陽炎”みたいな｣
そんな､生きづらさを抱えた｡
不器用でただのちっぽけなたったひとりの人間｡
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そら(プロフ) - 昨日今日で一気見しました！叫びそうなほど良い作品うぃありがとうございます！！！お疲れ様でした (2020年7月28日 19時) (
レス) id: 8efb03cbb1 (このIDを非表示/違反報告)
ハイイロ(プロフ) - 零さん» コメントありがとうございます！そして今作品を最後までお読み頂き本当にありがとうございます｡Another story編作らせて頂きました！ぜひともそちらの作品もお楽しみ頂けたら嬉しいです！ (2019年9月15日 12時) (レス) id: 87fa6c3c8e (このIDを非表示/違反報告)
零(プロフ) - お疲れ様でした。とてもよい作品で、私が1番好きな作品でした。よければアナザーストーリーで2人のその後みたいなのが見たいです！お待ちしてます。 (2019年9月11日 17時) (レス) id: 96c851f2fd (このIDを非表示/違反報告)
ハイイロ(プロフ) - 刹鬼さん» コメントありがとうございます！そして今作品を最後まで読んで頂き､本当にありがとうございます｡最後にそう言って頂けてとても嬉しいです！ (2019年9月10日 21時) (レス) id: 87fa6c3c8e (このIDを非表示/違反報告)
刹鬼(プロフ) - 初コメ失礼いたします。そして、完結おめでとう御座います！読んでいると心がとても温かくなる最高の作品でした。お疲れ様です (2019年9月10日 19時) (携帯から) (レス) id: 363b2bec95 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ハイイロ | 作成日時：2019年5月1日 0時
