アゲハ蝶 【前編】

＃４４ ページ44

貴「あ、ちょ、返し」

WN「産む気？」

貴「そ、そりゃあね…」

WN「あの人と結婚でもすんの？あの人はあんたが妊娠してるかもしれない事知ってんの？」

貴「……俺の子孕めよってスンチョルが…」

WN「あんたはあいつと一生添い遂げる覚悟あんの？子供産む覚悟あんの？あいつの事本気で好きなの？」






…早口で、まくし立てられて。
いつも表情を崩さない彼が、眉間にシワを寄せていて。






貴「…そりゃ、愛してるよ？スンチョルの事。
だから、妊娠してたら嬉しいし。覚悟もちゃんと」

WN「愛してる？嬉しい？なんで？
あんた、あいつの何処が好きなの？毎日無茶苦茶に抱かれるだけで、一体何処を好きになったんだよ」

貴「そんな事ない、スンチョルはちゃんと私の事、」

WN「あいつに助けられたから？
暴君だったキム セジュンからあんたを助けたのがあいつだったから？」

貴「え、？」







ダンッ、と乱暴に、検査薬を棚に戻して。
ウォヌは眉を下げて、苦しそうに、悔しそうに…。









WN「…あんたを助けたのが俺だったら、あんたは俺に惚れたわけ？」









低く。
吐き捨てるように呟いた。





貴「ウォ、ヌ」

WN「…あんたがもっと、クズでビッチで嫌な女だったら良かったのに」

貴「っ…」

WN「俺の方があんたの事大切にする自信ある。俺の方が気持ち良く出来る自信もある。」






彼のこんな声は、顔は、初めてで。
言葉が一つも、出てこなくって。
細長い彼の指が頰に触れても、頰を撫でても、振り払う事なんて出来なくて。







WN「俺は今から、あんたに一発殴られる。」

貴「ウォヌ、待っ」

WN「待たない」








唇に、柔らかな感触。
息つく間もなく、熱いものが口内に入り込んで、足が震える。






貴「やっ…待っ、て…」

WN「待たないってば」





ちっとも、敵いっこない。
彼の胸板を押し返しても、ビクともしなくて。
顔を必死に背けるけれど、頬と後頭部を、しっかりと抑えられて。

薬局の一角。
店員さんがいるかもしれない。他の客がいるかもしれない。カメラが付いているかもしれない。
なによりも、








私には、愛する人がいるのに。





WN「……子供、堕ろしてよ」

貴「っ…！？」





泣きそうな顔のウォヌに。
苦しそうな顔のウォヌに。
彼からの、求めるようなキスに。


少し、ほんの少しだけ。
何かが揺れてしまったのは確か。

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