episode.10 歌舞音曲 ページ31
船に揺られながら2日が過ぎた。
そろそろ食料がそこを尽きようとしていた。
グーくんは海のプランクトンやらを食べれるので全く問題はないが、人間のこの子達は違う。私自身、あまり海王類が好きじゃないので余程のことがない限り海には潜りたくない。
ウタ「Aさーん。死んじゃうよーお腹ペコペコ。」
甲板に寝転びながらそういうウタの声が聞こえた。
ゴードンは少し船酔いをして体調を崩していた。
私も限界を感じ甲板に寝転んでいた。
貴「そうねー、もう限界よね。」
そう言って、私が海にもう潜ろうとした時だった。
近くに船が見えた。海賊旗を掲げるその船は宴をしている。私は思わず口角を上げた。ちょうどいいカモを見つけた。
貴「ウタ、あの人たちに食料を分けてもらいましょうか。」
私はその海賊船を指さしそう言った。
私が指さした方を見るとウタは途端に眉間に皺を寄せた。海賊が嫌いなのは何となくわかっていたが、こんなにも顔に出るとは思わなかった。けれど、本当は分かっていた。
ウタが本当に嫌いなのは"奪う事"だけを楽しむの海賊だ。
ウタ「Aさんもアイツらと同じなの。」
ウタは下を向いてそう言った。
私はきっとそんな人たちのために生きてきたんだと思う。悲しそうな顔をする彼女のような人を一人でも多く助ける為に私は生き続けているんだと、本能がそう言っているようだった。
私はそんな彼女を見て笑顔で言った。
貴「覚えておきなさい、ウタ。"音楽"は人々を笑顔に出来るの。」
私はそう言ってからグーくんに船を海賊船に進めるように言った。そして、海賊船のすぐそこに船が近づいた時、私はその船に飛び移った。
「あ゛？誰だテメェ。」
「女ひとりで乗り込んで来るとかナメてんのか？」
貴「あら、邪魔してごめんなさいね。お邪魔しちゃったついでに音楽でもいかが？私、こう見えて音楽家なのよ。」
私はそう言ってヴァイオリンを持っていた歳をとった彼にそれ借りるよう頼むと、彼は私を見て笑顔でヴァイオリンを貸してくれた。
一人の海賊に剣で切りつけられそうになりながら演奏を始めた。
「ふははっ、やるな姉ちゃん!!」
「楽器演奏しながら逃げるなんてやるじゃねーか！」
「もう一曲頼むよ姉ちゃん!!」
さっきまでの殺気は見る影もなかった。それから暫く私は彼らの為に楽器を演奏し続け、たくさんの食料と共に自分たちの船に戻った。
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作者名：楸 | 作成日時：2022年10月5日 20時
