episode.8 音楽の都 ページ28
若者の話によればウタと言う少女は今年で19歳になるらしい。彼女は1度も島の外に出たことがないという。
私は綺麗な目をした若者から目を逸らした。
貴「青年、手を出して。」
「は、はい。どうぞ？」
私は彼の手にそっと"干渉"を込めた。彼が命の危機に陥った時、一度だけ彼を守ってくれる種類のものだ。若者はとても不思議そうな顔をしていた。
私はこの"干渉"が発動しないことを願うばかりだ。
貴「おまじない、それとこっちはお金。ほんの少しのお礼よ。」
「おまじないってどういう…」
彼がそう言いかけた時、船が島へと着いた。
私は彼の手に金貨の入った小袋を彼に握らせた。彼が決してお金に困っているわけではない事を私は知っていたけれど、これでしかお礼の仕方が分からなかった。
私はそのまま島にある城へと向かって歩き出した。
何も無い場所だ。人の気配すらしない。所々に焼けたあとがあった。大きな海王類の骨がある場所はステージのようだった。
私は城へと続く道をゆっくりと歩いた。
"トットムジカ"。それは魔王と呼ばれた何か。人間の負の感情の集合体。ウタウタの実と"それ"が交わる事は決してあってはならない。
♪〜
しばらく歩いた頃だった。綺麗な歌声が聞こえてきた。
海のさざめきのように、私の頬を掠めている海風のように聞こえてくるその美しい歌声に私は心臓を奪われていた。
ふと視線を上げたその先にいた窓枠から見える懐かしい赤い髪を見て確信した。まるで、そこだけ時間が止まっているような感覚にすらなった。
気づいた時には私は彼女の元へと駆けていた。
貴「素敵な歌ね、お嬢さん。」
「え？」
窓枠に立っていた私と机に向かって座っていた彼女の目が合った。彼女はとても驚いたように目を大きく見開いていた。私の心臓は、私が作ってきたどんな曲よりも高らかに波打っていた。
こんなにも胸が踊るのはいつぶりだろうか。
「…だ…だれ？」
貴「私は音楽家のルベウス・A。」
「…ルベウス……ってあのルベウス？！！」
私が名前を告げると彼女はさっきよりもずっと驚いた顔をしていた。開いた口がふさがらないようで彼女はしばらく唖然としていた。
目は大きく見開いていたその姿はとても愛いかった。
貴「私はルベウス・A。ロジャー海賊団の音楽家。夢は世界一の音楽家になる事。よろしくね、私の可愛い孫。」
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作者名：楸 | 作成日時：2022年10月5日 20時
