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彼は私の手からヴァイオリンをケースごと奪うと、すぐに取り出して状態を確認した。そして、そのまま店の奥へと入っていった。
人の話を全く聞かないところも変わらないな。私がどんな姿になっても何も変わらないわねあの人だけは。
私はそのまま店を出た。
「いらっしゃーい！こっち安いよ！」
「今なら10パーOFFしてるよ！」
「お嬢ちゃんたちかわいいからまけるよ！どうだい？」
色んなところから声がする中、私は足早に港に向かった。その中に大きな木箱や樽などの荷物を積み込んでいく船があった。貿易船にしては小さく、嵐などあれば危険だ。
私は荷物を運び込んでいる若者に声をかけた。
貴「ねぇ、この船はどこに行くの？」
私が急に声を掛けたからか若者は驚いて荷物を落としかけた。私はそれをスっと受け止めた。
「あっ、ありがとうございます！」
貴「いえ、お仕事の邪魔してごめんなさいね。ところでこの船は？」
この島では若者も老人も皆が公平に働いている、とても平和な国だ。海賊の姿もなく、海軍に脅えている様子もない。新世界ではあまり見ない光景に私は暖かな気分だった。
若者は海のように綺麗な目で答えてくれた。
「エレジアへの貨物船ですよ。あの島には2人しかいなくて、こちらから物資を運んでるんです。観光のお客さんもエレジアに？」
貴「えぇ、"音楽の都"と呼ばれた国を見てみたくて。」
「赤髪海賊団が滅ぼしちゃって資料なんかはほとんど燃えて残ってないらしいけど、それでもいいんですか？」
なるほど、新聞にも乗って民衆にも伝わったのね。娘を救うために大勢に恨まれる道を選ぶなんて、小僧が一丁前に大人の真似事なんてしてんじゃないわよ。
私の面目が立たないじゃない、私は、私は貴方の親なのに。
貴「えぇ、乗せてちょうだい。」
「分かりました！じゃあ先に乗っててください！」
若者は笑顔でそう言うと、船内へ荷物を運んで行った。私は一人で船の甲板へと出た。空気に干渉して私の声をグーくんにこの船に着いてくるように伝えた。
波がゆらゆらと揺れていた。
「では、出発しますね！」
貴「えぇ、よろしくお願いします。」
船は順調に進んで行った。
その間私はずっとあの若者と話をしていた。
貴「ねぇ、エレジアにはもう音楽家はいないの？」
「あー、国王だったゴードンさんと…あと歌がすっごく上手なウタちゃんって女の子がいますよ。」
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作者名：楸 | 作成日時：2022年10月5日 20時
