大人になった私には夏油くんを守る義務がある。0 (ページ9)

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夏油「君で詰みか。」

そう言った夏油君の目の前に立ったのは五条だった。

私はただ物陰に隠れて盗み聞いていた。
彼の声を久しぶりに聞いた。懐かしい暖かい声。

半年ぶりに聞く大切な人の声。

夏油「私の家族は逃げきれたかな。」

いつも主語が他人になってる優しい人。

優しすぎて世界に溶け込みきれなかった。綺麗で可哀想な私の幼馴染。私には君を守る義務があったはずだった。私の方が大人なのに心底情けない気分だ。

そう思うと拳を握る手に力が強まった。

夏油「悟、最後に彼女に伝えてくれないか。」

涙を流す彼の顔が見えた。
誰よりも幸せそうに笑っていた。

夏油『━━━━。』

その言葉を聞いた時、気づいたら体が動いて私は夏油君の前にいた。

貴「そういうのは直接言ってよ、夏油君。」

驚いた彼はまたすぐに嬉しそうに笑った。

呼吸が徐々に荒くなっている気がした。
彼の呪力が弱くなっていた。

神様はとことん彼に意地悪をしたいみたいだ。

五条「A…」

貴「死なせないよ、その為に私がいる。」

目から何か溢(こぼ)れてる感触があった。

今度こそちゃんと助けてあげるんだ。
私はもう大人だから話を聞いてあげないと。

もう二度と彼が独りにならないでいいように。

夏油「Aちゃん…」

こんな感覚になったのは随分と久しぶりだった。

雨なんか降ってないのに、何でだろう。
大嶽丸の領域見たいにポタポタと流れる。

目の前が霞んでよく見えない。

貴「反転術式」

私は夏油君を必死で治療した。

次第に脈は安定して呪力も回復してきた。
私の術式を付与してるから治癒は加速する。

だが、全てを治すには全く足りない。失った腕を戻すなら対価が必要だ。反転術式だって万能ではないから。だから、術師にとって大切なモノを少し拝借しよう。

もう彼が二度と離反しないように。

貴「掣肘呪術常磐(ときわ)」

その時の夏油君も泣きそうな顔をしていた。

掣肘呪術常磐 : 常磐の語源より、永久不変である相手の魂に干渉する。干渉された魂はエネルギーとして変換され術師と相手の間にできた繋がりに消化される。また縛りを作る事も可能で、条件は術師本人によって決められる。一種の契約に近しいが、魂レベルの共鳴になるので掣肘呪術の中では非常に危険な術である。