偽り夫婦【Kenshiro.K】 (ページ6)

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『ただいま。』

「おかえりなさい。ご飯出来てますよ。
それともお風呂湧いてるのでそちらにしますか？」

この頃、川西さんの帰りが早い。

ご飯だって食べてくれるし、一緒に寝ることも増えた。
やっぱり他の方も忙しいのかな。

『ごちそうさまでした。』

「はい。お粗末さまでした。」

『そう言えばさ。名前、聞いてへんかったなって。』

「あれ…そうでしたっけ？」

『うん。俺の名前は書いてあったからわかると思うけど、
俺は聞いてなかった。今更やけど。』

「Aです。」

自己紹介してなかったなんて、なんてご無礼を…

『あ、そっか、苗字は一緒やんな。』

「はい。」

『あのさ……』

川西さんが何かを言おうとした時、LINEの通知が。

『ごめん。』

そうあの時とおなじ柔らかい表情でスマホに目を向ける彼。
きっと彼女さんなんだろうな。

純粋に誰かに好かれて愛されるって言う感覚が分からない。
近づいてくるのは大体がお金か、父の力を使っていい位置に行きたい人か。

父に素性を調べられ、別れることになった時も、漫画みたいに連れ出してくれる人は居なくて。
別れ際に酷いことを言われたこともしばしば。

それと比べて、目の前にいる川西さんは純粋に誰かを愛していて。
少しだけ、羨ましかったり。

『あのさ。』

連絡が終わったのか、いつの間にか隣にいた川西さん。

「何でしょう。」

『ちょっと話さへん？』

私と話したい？何かあったのかな。

「私で良ければ。お茶入れるんで座っててください。」

『いや、俺がやるわ。そっちこそ疲れてるやろ。
座って待ってて。』

「いや…それはダメです。」