偽り夫婦【Kenshiro.K】 (ページ10)

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『どうも〜、和牛です。よろしくお願いします〜』

あの日以来表情がほぼ変わらないあの子の前で漫才をするのは初めてで。

初めてお客さんの前でネタをした時とか、M-1出た時と同じくらい緊張した。

『もうええわ。ありがとうございました〜。』

ふと袖を見ると、楽しそうに少しだけ笑みを浮かべた姿があって、心臓が音を立てたみたいにドキッとした。

俺、最近おかしいんかな。

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『ごめんな。遅くなった。』

「いえ。大丈夫です。」

『じゃあ、帰ろうか。』

「はい。」

家に帰って、向かい合ってご飯を食べる。

いつ食べても、何を食べても美味しくて。俺太るんちゃうかな？って思うくらい。

彼女を優先にして一緒に過ごす事が増えて、
一つだけ、気がかりなことかあった。

『なあ。』

「何でしょうか？川西さん。」

『それ。今日から無しな。』

「え？」

『夫婦やから。Aちゃんも川西やし、川西さんは無し。
賢志郎な。』

急にちゃん付けで呼んだからか、びっくりして目をパチパチさせるAちゃん。可愛い。

「男性下の名前なんて…長く呼んでないから難しいです…」

『アカン。無理や難しいやなくて、俺がそう呼んで欲しいねん。な？Aちゃん。』

名前を呼んで見つめれば、みるみる顔が赤くなって。

これがちゃんとした恋愛結婚やったら俺何してるか分からへん。