偽り夫婦【Kenshiro.K】 (ページ26)

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「すみません…彼女さんのお願いには答えられないです…」

《……どうして？》

「恋愛結婚なら良かったんでしょうけど、これは私と賢志郎さんの幸せの為の結婚ではなく、父親同士のビジネスの為の結婚だったんです。

私がどう、あなたがどうとかで決められることではありません…すみません…」

《そっか…本当にごめんなさい。軽率な事をしたばかりに。
もう二度と会うことはないでしょうけど、あなたの幸せを願ってる。》

「私もです。」

そう言い残し、彼女はお店を後にした。

カバンの中には離婚届。今からこれを出してしまったら
賢志郎さんと私は他人同士。賢志郎さんは自由の身だ。

私の一時的な感情だけで彼の今後を縛り付けても良いのだろうか。

彼女さんはああ言ってたけど、
親の決めた人と結婚する私と違って、
彼は今後の人生で本当に好きな人と出会い、付き合い、結婚する権利がある。

その権利を、私の一時的な感情だけで縛り付けて良い訳が無い。

「よし…」

この紙を出して彼が今後幸せなら、私はそれでいい。

「市役所までお願いします。」