チューリップ【七五三掛】 (ページ36)

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結局龍也さんにはかけ直さなかった。

｢本気で好きなんだよ。｣

あの言葉が脳裏にチラつく、

その度に、なぜか海斗さんの顔も思い浮かんできて。

海斗さんの家を出ると、外の風はもう冷たくなり始めていた。

そうは言っても駅まで近いからまだ楽。

肌寒さを感じる度、海斗さんの体温が愛おしくなった。

ほんとの名前でも呼んでくれない人に何を求めてるんだろうか。
冷静になればそう思う、それでも、海斗さんがくれる優しくて残酷なあったかさが好きだった。

・

｢…あれ、｣

ぼんやり歩いていると、不意に後ろから肩を掴まれる。

｢Aちゃんだ、こんにちは｣

『の、如恵留さん？』

｢ははっごめん。びっくりさせちゃったね｣

『あ、いえ、平気です…今帰りですか？』

｢えーっとね、今から待ち合わせなんだっ｣

『…彼女さん、』

｢なんでわかったの！？｣

やっぱり。

『幸せ隠しきれない～～って顔してますもん笑』

そう言うと｢恥ずかしいな｣って頬を押さえながら笑う。

『美人さんだって聞きました、』

ちらって、龍也さんが浮かんだ。やだ。

｢えなんで知ってんの笑しめ？｣

ほらやっぱ、案の定聞かれるのになんで言ったんだろう。

『、はい』

｢あいつ～～もう…あ、そういえばあの水族館どうだった？｣

｢イルカショー、綺麗だったでしょ｣

『っ、すごい綺麗でした！きらきらーってしてて、』

つい興奮して話す私に｢よかった｣と漏らす如恵留さん。

｢しめにその話したらね、｣

｢Aちゃん連れて行ってあげたいなって、話してたの｣

『…え、』

ぽかんと口を開けたままの私を見て

｢愛されてるね、ほんとに｣

ちょっとだけからかうように言う。

｢しめがあんな風に言うの、俺初めて見たよ｣

優しい表情で言う如恵留さん。

お世辞とかじゃないんだろうって、察した。

｢…認めてあげて欲しいな、あいつの気持ち｣

まっすぐな言葉が刺さる。
そんな風に言われたら、ノーなんて言えるわけない。

信じざるをえないのに、まだ素直にはなれなかった。