:..｡oƒ *:.. ページ5
.
困惑している私なんて置いてけぼりにして、彼は言葉を続けた。私はその言葉に驚いてぶるーくさんの方を見つめる。
すると、彼は私の顔でなく、私の頭の少し上を見つめていることに気付く。嫌な予感がして恐る恐る振り返れば、先程の化け物よりも何倍も強いと言われている獣と目があった。
そこで全てを理解してしまう。彼は、私にあの獣を倒せと言っているのだと。じわり、背中に汗が滲むのを感じた。
『そ、そんなの、』
倒せるわけがない。先程だって、逃げるのに精一杯だったのだ。なのに、それ以上に手強いとされている化け物を倒せるはずがないだろう。
「断ったら君の人生ここで終わっちゃうよ？」
「それは嫌でしょ？」
にこり。彼は言葉とは裏腹に子どものように無邪気な笑みを浮かべる。
そうか、彼にとってこれは遊びなのだ。私とあの獣がどのようにバトルをし、どのようにして勝敗が決まるのか。この人は、私自身と交渉するのではない、私自身を交渉利益と捉えているのだ。
つまるところ、私は彼にとって見せ物でしかない。
その事実を理解した瞬間、私の喉からヒュッと乾いた音が漏れた。ここは実力主義社会で弱肉強食の世界。それを忘れることなんて許されないし、誰も許してはくれない。
「どうするの〜？僕はどっちでもいいよ〜」
ぶるーくさんは心底楽しげな声で私に問う。
なんだかんだで一番残酷なのではないか。残酷性でいうと、win-winの交渉であると微笑む癖に、実際は自分の方が有利であることを理解しつつ牽制して交渉を持ちかけてくる方が遥かにマシだ。
しかし、交渉する価値のない私にとって、これはある種不幸中の幸いと言えるだろう。何せ、このまま私が彼にこの条件を持ちかけられなかったら、私の死亡率は120%だ。しかし、交渉を持ちかけられたことによって100%に下がる。
100%なら死ぬのには変わりない？…そんなことはない。もし目の前の獣が逃げ出したり、運良く私の魔法が何度も急所に当たる可能性だってある。そしたら100%が90%になるのではないか。
そうなれば10%の確率で生きていられる。たかが10%じゃない、されど10%なのだ。
………諦めるには、まだ早い。
震える足に鞭を打って、己の決意を証明するために力強く杖を握りしめた。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 168人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
千歳(プロフ) - 如月さん» コメントありがとうございます。素敵なお言葉を頂き大変嬉しいです。亀更新ではありますが更新頑張りますね！ (2021年12月13日 9時) (
レス) id: 1238bcdf67 (このIDを非表示/違反報告)
如月(プロフ) - コメント失礼します！これから物語がどのように進んでいくのかとっても楽しみです！更新頑張ってください！ (2021年12月12日 8時) (レス) @page8 id: c741d9f668 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：千歳 | 作者ホームページ：http://urana
作成日時：2021年10月30日 11時
