不器用な彼と奥手な私

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『えっと、その…』


「………音羽で大丈夫です。」


『音羽さん、はどうして今回のお見合いを受けようって思ったんですか…？』


「両親に頼み込まれたからですよ。会わせたい人がいる、1度でいいから来て欲しいと。

…行ってみればお見合いで、そこに貴女がいただけです。」



『そう、なんですか……』



予想していた通り彼も半ば強制的に連れてこられたようだった。
分かっていた事なのにちくりと胸が疼いた気がするのをAは頭の中でブンブンと思考を振りほどいた。




「…そんな貴女も、無理矢理連れてこられたって感じですね。」



『ま、まぁ…。こういうの…その、初めてで…。
看護師の道を進む代わりにお見合いはするって条件だったので…。』



「…………。」


『両親を…、悲しませたくないですから。』



両親を悲しませたくない。
だけど私にも夢ややりたい事がある。


やらなきゃいけない事とやりたい事の板挟みでAはどうすればいいのか。
ずっと悩み続けてきた。



彼だってきっと好きな女性がいたはずだ。



それなのにこんな親同士の思惑に巻き込ませるのは申し訳ない。


______だから。




『でもそれは音羽さんには関係ないので別にお断りしてもらっても「………別に構わないですよ。」』


『…………え、？』



「結婚を前提にお付き合いをしても構わないって言ってるんです。これでも医師資格は持っていますから、それなりに仕事に対して理解はあります。

貴女は仕事が続けられますし、結婚という条件も果たせる。」



『あ、いや、果たせるってそんな…それじゃあ音羽さんにメリットが無いじゃないですか！』


「……ありますよ。メリットなら。
老舗和菓子屋のAといえば政治界では名の知れた名家ですから。」




それは暗に出世に利用できると言われているのも同然だった。




『……………。』


「どうしますか。」


真っ直ぐあの黒い瞳が私を射抜く。
何を考えているのか分からないあの顔で、私を見つめている。





どうするか、と音羽さんに聞かれて結局私が出せる答えは1つしかなかった。

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