旋律(気象系/J×N) (ページ7)

今日:1 hit、昨日:0 hit、合計:3,699 hit

7 ページ7

最近、彼がこない
前は毎日のように来て
ピアノ弾きたいなんて我儘言ってたのに
いたらいたでうるさいけどさ
居ないとやっぱがらんとしてるんだよね

コーヒーは元々嫌いだった
だって、苦いでしょ？
あれが美味しんだって、大人には
子供の間ではそれが当たり前
大人の飲み物
子供にとってはジュースみたいなもん
苦味は旨味

中学2年の夏
やっと大人になれた
子供には分からない旨味が感じられた
そっからは沼みたいに
ずぶずぶ、ずぶずぶ
ハマったら抜け出せないんだよ、あれ
豆にもこだわりたい
淹れ方にもこだわりたい
お湯の温度にも

気付いたら、腕は上がって
行きつけの喫茶店
そこのマスターから言われた
後継ぎがいないんだ
俺でよければ
即答だった
だって、好きなんだから

高校を卒業した春
マスターの喫茶店に務め始めた春
また少し、大人になれた気がした
そんな春

毎日が修行だった
当然、最初はコーヒーは淹れられない
ウェイターからやった
お客様との付き合い方
初めて来てくれたお客様への気遣い
常連さんたちの"いつもの"
全部頭に叩き込んだ
この喫茶店を無くさないようにするため
素敵な大人の休息場を守るため

そんな日々を過ごして
少しだけ変わったことといえば
俺が1人前になった春
マスターがいなくなったこと
それと同じくらいの時期に
彼が、ピアノの彼が現れたことぐらい