雷の妖 ページ3
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『…っ、』
意識を取り戻したAは、自分が置かれている状況が理解出来たと同時に、吐き気がするほどの嫌悪感と震えが全身を襲った。
息が出来ない。
また、意識が飛びそうだった。
いや…むしろ、飛ばしたいくらいだった。
当時と同じ体勢で鎖に繋がれ…
真下には大量の水が…
全身の細胞という細胞が助けを求めていた。
ギギギギッ
あのとき何度も聞いたあの重い扉が開く音。
首無が隣にいたときとは全然違う。
これを一人で聞いた今この瞬間。
一気に精神があの頃に引き戻された。
震えが止まらず強張っていた彼女の身体は、急に脱力した。
「…久し…ぶりですね、Aさん…?」
あぁ、この声だ…
この声でノイローゼになりかけていた。
あのときはほんとに頭がおかしくなりそうだった。
グイッと顎を持ち上げられた。
「相変わらず、僕の好みの顔ですね」
その男はそう言ってニッコリ笑った。
『…狂ってるな…』
Aは消え入るような声で呟いた。
「それは僕にとっては褒め言葉ですよ。
僕はこのときを待っていたんですよ。
あれから、貴女は行方知れずでしたから。
まさか、水になっていたとはね」
クククッと楽しそうなその男。
『…っ!…なんで、知って…』
「なんでって、あの首がない色男と一緒にいたじゃないですか。
あれは、だいぶ妬きましたよ」
男はやれやれと呆れような表情でそう言った。
やはり、この男はあの場にいたのだ。
あの場にいて、あの話を聞かれていたということだ。
「あ、そういえば、僕がなんの妖かご存知ないですよね?」
当時は言ってなかったですもんねぇ、と続けた。
「僕はね…雷の妖なんですよ」
そう言って男がニヤリと口角を上げた。
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作者名:怜。 | 作成日時:2020年8月13日 13時