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『私、別れたくない』
確かに思うところは色々とある。
でも、一緒に過ごした数ヶ月で感じた月くんの優しさを今は信用したいと思えた。
『月くん、あなたはどうしたい…?』
同じ思いだとは限らないしな。
彼が言ったようにただの保護対象としてしか見られていないのだったら、付き合うという行為をこれ以上続ける理由はないわけだし。
…だめだ、そういう風に考えただけなのにしんどくなる。
俯いて目を固く瞑って彼の判断に期待するしかない。
月「…別れない」
『本当?!』
勢いよく顔を上げた私に月くんが吹き出す。
いつもの笑い方だ
目を細めて口角を少し上げた、何か企んでいる時の笑顔
月「おう。これからもっと本腰入れて守る。だからAに知っていて欲しい」
知るって何を?
問いかけようとしたけど、彼越しに見える山姥切さんが笑って被りを振るので、なんか聞いちゃいけないような気がして口を継ぐんだ。
すっかり話に夢中になっていたけど、そういえば来客中で山姥切さんの隣に座る水心子さんなんかは私達の公開告白を見てかわいそうに思うぐらいわたわたしている。
ジワジワと恥ずかしくなって顔に熱が集まってくるが、言ってしまったものは仕方ない。そう割り切ろう。
そんな風に考える余裕も出てきた私だったけど、その余裕も一瞬で無くなってしまった。
なぜなら窓を開けていない部屋の中に風が発生したのを目の当たりにして生唾を飲み込むことが精一杯だったから。
月くんの髪や服を激しく舞わせていたかと思うと、光が部屋を満たした。気のせいじゃなければ月くんが光出しているように見える。
そのうち、目が開けれないほどに眩しくなって閉じた瞼の上から手で覆った。見ておかないといけない気がするが、いかんせん眩し過ぎる。
風も光も弱まってくる頃、意を決して開いた目に先ず飛び込んできたのは花びらだった。
日本人なら誰でも目にしたことがある、これは桜だ。
ベッドに優しく降り注いだ桜は私の手に当たるとすぐに形を無くしていく。雪のようだなと思いながら目線を上げた先に居たのは月くんの面影を残す、全く知らない誰かだった。
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作者名:名無しさん | 作成日時:2023年4月2日 13時