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(ASide)
「Aさん!これ、資料室戻してきて!!ついでに整理もお願い。」
そう言って渡されたのは、大量のファイル。
「え?これ、全部、ですか...」
「もちろんでしょ。」
「Aさん、俺、手伝うよ。」
隣の席の、同期の知念くんが声をかけてくれる。
「知念くん!!何言ってんの?!アナタ、自分の仕事終わってないでしょ!!Aさん、1人でできるわよね?」
「おーい、Aさーん?」
うちの課のチームリーダー、有岡さんがこちらに来る。
「あのさ、この企画、Aさんも一緒に、」
ひょいと有岡さんの持っていた資料を取り、パラパラとめくる先輩。
「有岡さん。これは少しAさんには早すぎません?あ、私、代わりにやります!」
さ、行きましょと有岡さんの背中を押し、先輩は去っていった。
「...Aさん、ごめん。1人で平気?」
「知念くん、ありがと。大丈夫だから。じゃ、行ってきます。」
ダンボールにファイルを詰め込み、1人資料室へ。
大きくひとつ、ため息をつき、ファイルに手を伸ばす。
...なんだかね。
あの先輩、もうずーっとアタリ強いのよね。
よっぽどイケ好かないんだろうな、私のこと。
まぁさ、嫌われちゃうのはしょうがない。
実際、仕事もまだまだ半人前で、足ばっかり引っ張ってるもん。
でもさ、あからさまに皆の前でやられるのは、ちょっと...ね。
さすがにへこみますよ。
ふと机に置いた上着の上で、ピカピカ光っているスマホが目に入る。
...何だろ?
タップすると、岸くんからのLINE。
"俺の友人、数え方のクセが強すぎ"
おめめパッチリの青年が、指を折って数を数えている動画を送ってくれている。
「ふふっ、何これ(笑)。5と10のとき、手はグーになっちゃうんだ(笑)。」
スマホを見ながら、1人でクスクス笑う。
岸くんは絶妙なタイミングで、絶妙なLINEをくれる。
不思議だ。
でも、助かる。
心がふっと軽くなるのが、分かる。
ファイルを片付けながらも、ずっと1人で笑っている。
「誰か、いるの?」
ドアの開く音。
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作者名:Momanao | 作成日時:2019年9月8日 23時