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「ごめん、15分経ったら、起こして?」
私を抱いたまま、眠ってしまった彼。
女の人のように、キレイな寝顔からは、穏やかな寝息が聞こえる。
私の目の前にある、左手。
薬指には...うっすらと指輪の跡。
「伊野尾さん、変なとこ気使うから...」
そっと、自分の指を絡める。
私の好きな人。
お付き合い、してる人。
でも、それは秘密。
誰にも、言えない。
伊野尾慧さん。隣の課の、チームリーダー。
私が新人で、何も出来ずに怒られてばかりのとき、声をかけてくれた。
優しく、私の話を聞いてくれた。
本当は、皆に優しくて、誰でも笑顔にしちゃう人なのに、
若い私は、自分だけって勘違いして、恋をした。
結婚してて、スマホの待受は可愛い娘さんの写真って知ってるのに、
どんどん好きになってしまった。
ダメだって、立ち止まらなきゃって思いながら、
偶然に、2人だけの残業の夜、自分の気持ちを伝えてしまった。
...優しすぎる伊野尾さんは、私を受け入れてくれた。
私が、彼を引き込んでしまった。
私が、全て、悪い。
2人で会う度、ダメだって、もう止めなきゃって自分に言い聞かせるけど、
包み込まれてしまうと、何も言えなくなる。
優しい伊野尾さんに、甘えてしまう。
あ、15分。
「伊野尾さん、起きて。帰らなきゃ。」
半分目の開いてない伊野尾さんを起こして、帰り支度を手伝う。
「今日はありがとう。気をつけて。」
「うん。また連絡する。」
私に軽くキスをすると、ドアの向こうに消えた。
今は、21時。
部屋の窓から、彼の運転する車を見送る。
ふと、ベランダに干していた、岸くんのパーカーを思い出す。
ハンガーから外すと、お日様の香りがした。
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作者名:Momanao | 作成日時:2019年9月8日 23時