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(優太Side)
「あー、もう始まってますね。」
屋上からは、色とりどりの鮮やかな花火が見えている。
「うわー...」
Aさんはそう言ったきり、しばらくその場に立ちすくんでいる。
俺は誰かが置きっぱなしにしていた椅子を2つ並べる。
「まぁ、そこに立っているのもなんなんで、どうぞ。」
Aさんを誘い、2人で並んで座った。
「...すごいね。花火、独り占めしちゃってるね。岸くん、ありがとう。」
俺を見てにっこり笑うと、すぐに前を向いて花火を見ている。
...違うよ。
俺が、Aさんを独り占めしたかっただけ。
浴衣姿のAさん。
駅で、俺の方に駆け寄ってきてくれたとき、何も言えなかった。
可憐で、愛らしくて、人混みの中、ひときわ輝いて見えて、
他の男には、見せたくなかった。
俺だけが、Aさんを見つめていたかった。
そして、これからもずっと、俺だけのAさんでいてほしい。
俺の気持ちを、伝えたい。
「あの、」
Aさんの方を向く。
え、
...泣いてる。
ボロボロと涙を落としながら、花火を見ている。
「Aさん...?」
「あ...見ないで!あっち、向いてて!!」
慌てて横を向くAさん。
「...ごめん。なんかいろんなことありすぎちゃって、きれいな花火見てたら思い出しちゃって...ホント、ダメだな。」
小さく肩が震えているのが分かる。
俺はAさんに背を向けた。
「Aさん、」
「へ?」
「...よかったら、背中、貸します。」
「え?」
「だから、俺の背中で泣いて下さい。」
「え...いいの?」
「はい。」
「あの、鼻水なんかも、出ちゃってるんだけど...」
「うん...この際、我慢します。」
「本当に、いいんですか?」
「はい。遠慮しないで。俺、見ないですから。」
「...すみません。お借り、します。」
「どうぞ。」
俺の背中に、ふっと、温かな感触。
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作者名:Momanao | 作成日時:2019年9月8日 23時