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(ASide)
「ご馳走様でした。」
岸くんからスープジャーを受け取る。
しばらく2人でぼんやりする。
思い切って、私から話しかける。
「岸くん、ごめんね。嫌な思い、させちゃったね。」
「...いえ。Aさんこそ、大丈夫だったんですか？」
「うん、私はなんとか。ありがとう。」
そこで会話は途絶える。
「あの人...」
岸くんが、口を開く。
「へ？」
「あの、一緒にいた人、彼氏ですか？」
「...え、何で？」
「Aって、呼んでたから。」
「...うん、まぁ、そうなのかな。」
ぽつぽつ、途切れながらも会話は続く。
「あの、」
「はい？」
「あの、左手に、指輪...」
あ、岸くん、ちゃんと見てたんだね。
もう、何も隠すこと、ないや。
「...うん。そんなとこ。」
「そうですか...」
認めてしまったものの、岸くんのこと、恐くて見れない。
きっと、あきれてる。軽蔑してる。
そんなことしながら、平気な顔して自分と会っていた私を怒ってるはず。
「ごめんなさい。黙ってて。」
「いや、自分から言えることじゃ、ないでしょ？」
「...そうだね。誰にも言えないよね。奥さんも子供さんもいる人、好きになりましたなんて。ダメなこと、絶対したらいけないことしてるって分かってるんだけど、止められないの。最低だね、軽蔑しちゃうよね。」
岸くんはずっと黙っている。
私はもうこれ以上会うのはやめようと決めた。
「だからね、あの、」
「...俺は、何も言えないです。」
「え？」
「だって、半人前にもなってない学生ですよ。Aさんにどうこう言える立場じゃないです。それに、きっとAさんが一番分かってるでしょ？」
「え...？」
「うーん、だから、強いて言うことがあるなら...」
「うん。」
「ま、しんどいなーって時、話くらいは聞きますよ(笑)。」
にっこり私に笑いかける岸くん。
「なーんも、アドバイスなんかできませんけど。」
ふっと、気持ちが軽くなる。
こんな私でも、また会ってもらっていいのかな？
岸くん、優しすぎだよ。
涙目になりそうなのを、慌てて笑ってごまかす。
「...ありがと。岸くん、なんかカッコイイね(笑)。」
「でしょ(笑)。」
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作者名：Momanao | 作成日時：2019年9月8日 23時
