ブランク【灰谷蘭】

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……別に、この時間に開いていたのが偶々此処だっただけで、無理してする必要なんて当然無いんだから。
と言うか、するべきじゃ無い。そんなの分かってる。



此処に来てしまった理由をなんとか正当化しようとする私が、側から見たら非常に惨めなのも分かってる。



用意されたバスローブでは無く、私はもう一度着ていた服を着た。
私達は今現在、まともな会話を何一つしていない。



懐かしさに押し潰されて、苦しくなって。

ただ情に流されるだけでは、どうしようも無い。



「ははっ、なんで服着てんだよ。」


「いや、蘭、私やっぱ帰……、」


「此処に着いてきて俺がシャワー入ってる間に帰らなかったってことは、そういうコトだろ？」


「ち、ちが、待って蘭……！」




でもその先の言葉なんて、紡がせてもらえなかった。


矢継ぎ早に角度を変えてするキスに、知らぬ間に私は酔い痴れて。
気が付けば案の定、真ん中に置かれた派手なベッドに押し倒されていた。


そのまま手錠に繋がれていない、楽な両手を私の手に絡ませて。
私の手も心も、繋ごうとするんだ。



……嗚呼、なんで……、なんで。

なんで私はこの人のことになると。


さっきまで極端に働いたり働かなかったりしていた頭が、途端にショートする。




「………ずっと、こうしたかった。」


「蘭……会いたかった、やっと、やっと……会えた。」




頭では分かっていたはずなのに、どうして。

悔しいくらいに私は、この人に従順になってしまうんだろう。




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