ブランク【灰谷蘭】

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会社を出たのは1時を回っていた。
勿論終電なんて無いのは分かっているし、それを見越して今私はタクシーを呼ぼうとしたのに。


私が最後に見た蘭は9年前の2月21日の夜、もう日が変わると言う頃だった。



あの頃の彼は黒髪と金髪を交互に織り交ぜた長い髪を編み込んで。
長い特攻服に身を包んだ彼は、弟の竜胆とこの街を出て行く前だった。



＿＿＿＿「なあA、ちょっと顔出せる？」


どうして彼らはあの日、私の家に寄ったのか。




理由は本人達に聞かなければ勿論分からないことだし、今目の前にいるこの人から聞き出そうと思えば出来ること。

だけどもう9年も昔の話だ。
今更聞いたところであの頃の事実が変わることはない。



結局2人はまた手錠を掛けられて、そこから私は彼らに再会することは無かったんだから。

少年院にどれだけいたかも、その後の人生も私は知らない。



高校を卒業したと同時に私は地方の大学に進学してしまったから、あまりにも変わり果てた彼の風貌に思わず上から下まで確認してしまう。

トレードマークだった黒金髪のお下げは、綺麗に切られて紫とアッシュの短髪になっている。




「……会いたかった、ずっと。」



この時間に走る車は少ないせいで、周りは妙にスピードが速い。だから静かに彼から呟かれたその言葉だって、掻き消されてしまう。


でもきっと、思うところは同じだと悟った。




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