ブランク【灰谷蘭】

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サヨナラ、その意味がどう言うことか、分かってしまう。
私の憶測があっていれば、きっともう、隆は。



隆は………、もう居ない。




「A。」





完成したパズルを見せる子供の様に、弾んだ声で蘭は私の名前を呼ぶ。
無視したら良いのに。私も此処で死にたいと、あの人の後追いを乞えば良いのに。




「ら、ん…………、」




やはりこの人を目の前にすると、私はどうしても従順で仕方無い。
その優しい撫で方が、声が、………全てが、好きだと認識してしまう。



………嗚呼、なんて不謹慎だ。こんな時まで。

隆は、私と出会わない方が良かった。
　


私に助けられていなければ、間違い無く幸せになれたのに。
もっと純粋に、真っ直ぐな愛を注いで居たら。





ごめんなさい、本当に。ごめんなさい。





「もう会うつもりなんて微塵も無かった。俺のことなんて忘れて、真っ当な奴に幸せにしてもらえよって、10年間、ずっと…………。」




蘭の声が、震える。

いつも余裕めいた彼が、こんな切羽詰まるのは珍しい。



私のことで、悩んで、考えて。
貴方に漬けられてもう逃げられなくなった私と同じ様に。

もう一生、この暗がりでお互い生きていくのが一番性に合っている。





「………好きだ。」





初めて聞いた彼からの好きに、脳が溶けそうになった。
その言葉をもう一度と言わんばかりに、箍が外れた様に。

　


唇が触れる。弾みで歯と歯が当たる。この口の中に広がる鉄の味は、何方のものか検討もつかない。





幸せか、世間一般で見れば多分答えはノーだ。

私は夫を目の前の男に殺されて、言わば未亡人なのだから。




でもこの10年間を埋めるために必死になり過ぎた私には、十分過ぎるくらい。
その3文字は、満たされる言葉だ。


幸せの基準なんて、別に誰かに線を引かれて決められている訳じゃ無いんだから。




「蘭………、もっと言って、」


「A、好きだ。ずっと、ずっと、………愛してる。
二度と離してやらねえから。もう日の目なんて見れねえぞ？」


「良い、蘭が居てくれるならどうだって。」





貴方からの愛が聞けたら、どうだって。
黒く染まった私の世界は、明る過ぎるくらい。


どうだって、良いんだ。




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