ブランク【灰谷蘭】

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俺は大切な奴の隣から時折姿を消す。


理由は単純、俺が真っ当な人間じゃないからだ。
2回掛けられた手錠に懲りず、俺は相変わらず日陰で生活している。



梵天、と言う組織が俗に言う反社会勢力だと知って俺は弟の竜胆と共に足を踏み入れた。
元々汚れた足だ。別に更生された訳ではない。


今だって目の前にいる此奴の男を、すぐにでも殺せる手立てはあんだからさ。



偶然の幼馴染との再会に、俺は正直驚いた。
もう暗い影しか落とせない俺とは関わらない様、俺は彼奴の傍を離れた。

シャバに戻って来ても、それは変わらなかった。



偶々、偶然。その言葉が俺達の再会には1番良く似合う。
何も変わっていないAの姿を見て、俺の声は勝手に漏れて。


情けない俺の声は、彼奴の耳をどうやら掠めたらしい。




……嗚呼、なんて懐かしい。

この白くて柔らかい肌も、純粋過ぎるその目も、蘭、と俺の名前を呼ぶ少し高い声も。



違うところと言えば、昔に比べて化粧っ気が少しあるくらいで。
俺を見るその目も、何一つ変わらない綺麗なAのまま。



＿＿＿＿＿このまま奪って逃げられないのか。


今更好きだと、世界で一番愛していると声を大にして言って奪うことは狡猾だろうか。



月明かりに照らされる海を見るAの目が、大きく揺れて。

幸せになってね、と俺に別れを告げる。



遠ざかる彼女の背中を追えば良かったのに。
抱き締めてもう一度好きだと、伝えるつもりだったのに。



彼女の決意を見てしまった様な気がして、俺は背中どころか車の後ろさえも追えなかった。


………嗚呼、今俺がこの世で一番擬い(もどかし)。




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