: ページ25
.
誰も居なくなった部屋に鍵を掛け、私は車を走らせた。
私ね、黒塗りの高級車は運転出来ないけれど、普通の乗用車は運転出来るようになったの。
貴方の後ろに乗せてもらう以外、此処に来ることは9年前の私に出来ないことで。
それでも、自分一人で此処に来たのは初めてだった。
運転出来るようになっても、初めて。
車から降り、酷く冷える夜の海に私は歩みを進める。
＿＿＿＿嗚呼、あの向こうはどうなっているんだろうね。
月明かりに照らされるこの場所は透き通り過ぎて、濁って靄が掛かっている私には似合わない場所だ。
一人で来ると尚更思ってしまう。
こんな時期のこんな時間に海に来る人なんて誰も居ない。
夏の夜だったら、浜辺で花火をしている酔っ払った若者で少し賑やかしいんだろうか。
「………お、今年はいんじゃん。」
「ら、………ん、」
今日は2月21日、もう残り数分で日を越えようとしている。
初めて蘭のバイクの後ろに乗って此処に連れて来てもらった日は、偶然にも12年前の今日。
貴方が私の目の前からいなくなったのも、9年前の今日。
そしてそれが、もう10年前になろうとしている。
白く吐かれた息が、闇の中に溶ける。
そう言えば、私に背を向けて居なくなった10年前の今日も酷く寒い日だった。
顔出せるか、と聞かれたあの日。もう日が回る寸前。
そう言って声を掛けてきたのに、大量のお菓子を渡すだけ渡して、すぐに私を家に帰した。
今思えば、あれは選別だったのかと思う。
＿＿＿＿「こんな遅くにごめんな。風邪引くからもう家入れ。」
「だって蘭、竜胆も……。」
「大丈夫だから、心配すんな。」
いつもは余裕そうに笑うくせに。あの時だけ神妙な顔して心配するなって。
なんで、なんで………なんでよ。
………どうして、今も昔も全然変わらないの。
「こーんな寒い日に外出て、風邪引くぞ？」
嗚呼、その優しい声で、あの時みたいに頭を撫でないで。
今日が最後、そう思って来たのだから。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 310人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「東京リベンジャーズ」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
あゆ - 読ませてもらいました＞＜めちゃくちゃ面白かったです！！コンクリートブロックで殴られたっていうあたりから「ワンちゃん結婚するの三ツ谷なんじゃね？」って思いました笑 (11月30日 20時) (
レス) @page31 id: a474107c6d (このIDを非表示/違反報告)
ネオワイズ彗星(プロフ) - ATR214YSさん» 最後までお付き合いいただきありがとうございました〜！次回作もどうぞよろしくお願いいたします😌 (2021年12月4日 16時) (レス) id: 1b6713f965 (このIDを非表示/違反報告)
ネオワイズ彗星(プロフ) - 唯梨さん» ありがとう😭😭点と点を結びつけられるか不安だったけどとりあえず完結出来た、、お付き合いいただきありがとうございました😭😭今後ともよろしくうっ (2021年12月4日 13時) (レス) id: 1b6713f965 (このIDを非表示/違反報告)
唯梨(プロフ) - 完結おめでとう。まじか、まじかーーーー！隆かぁぁぁぁぁって叫びたい衝動に駆られました。後でわかるよ、ってほんとそのまんま。最後に全部が繋がる感じ…さすがです。お疲れ様でした！ (2021年12月4日 6時) (レス) @page31 id: 7ac5652e2e (このIDを非表示/違反報告)
ATR214YS(プロフ) - 完結おめでとうございます！楽しかったですっお疲れ様でした！ (2021年12月3日 21時) (レス) @page31 id: 5cda5f5352 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ネオワイズ彗星 | 作成日時：2021年11月26日 21時
