ブランク【灰谷蘭】

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蘭の背中の刺青をまたなぞる朝。


麻酔を打たれたみたいに体が重くて怠くて、だけどそれは嫌な重さじゃ無くて。寧ろ幸せで。
やはり、デジタル時計はこの静かな部屋に似合わないな、と痛感する。



9年経っても変わらない。

＿＿＿＿私は……、この人といるとどんどん弱くなる。




「………見んなって、そんな。」


「ふふっ、照れた？」


「うっせ、なんだァ？もっかいか？」





その煙草を吸う横顔に、何度恋をして。
この貴方を象徴した背中に、何度苦しんだか。


この9年間、出会って17年。
忘れよう、と思っていた時点でそれは意識付けられている。


潜在的に忘れることなんて出来ていない。
………結論、私は貴方をどうしても忘れられなかった。




沈むベッド、敷かれる腕。

多分また、私はここから出られない。




ねえ蘭、好きだよ。
貴方のことが、悲し過ぎるくらいに。


悲し過ぎるくらいに、好きで好きで仕方無いんだよ。





9年前と変わらないムスクの香りがまた煙草と入り混じって、記憶を想起させる。
柔らかい日差しに耐えられなくなって、彼はカーテンをもう一度閉めた。



じとり、と熱く粘っこい視線。

向けられるその視線に、少し背筋が伸びた。



A、と名前を呼ばれるたびに、シーツを強く握る私が苦しくて仕方無い。


終わりかけ、私だけが息絶えたベッドで彼は私を見ながら呟いたらしい。
いつも余裕な彼らしく無く、私の首に紅を残して。




「……A、好きだ。」




………その言葉を起きているときに聞けていたら、どうなっていたんだろうか。




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