育手は託したい。 ページ7
＿＿これは、弟子を見送った直後の育手の話。
…最終選別に行かせる気は無かった。
だから、岩を斬らせるつもりなんて毛頭無かった。
それが、育手＿＿元水柱、鱗滝左近次の思いだった。
然し、あいつは……竈門炭治郎はあの岩を斬ったのだ。
誰よりも大きく、硬かったあの岩を。
ならば、信じて待つことが、必ず生きて帰ってくると信じて、迎える支度をすることが、育手の務めだ。
そのために、”
｢……初めまして、精霊様。挨拶が初めてになってしまい申し訳ありません。｣
目の前の樹＿＿霧雲杉の樹に深々と礼をする。
弟子達から時折話は聞いていた。古くから言われている精霊なのでは、と踏んでいた。
＿＿精霊様なんてやめてくださいよ、私は多分貴方よりも歳下ですし……あれ、歳下ですよね？
風に乗って聞こえる声はひいふうみい、と自分の歳を数え始める。その声は、少女そのものだった。
＿＿＿うん、今年で35年目…伐採期なので、きっと貴方よりも歳下ですよ、鱗滝さん。どうしました？
名を呼ばれ、顔を上げる。天狗面の向こうの双眸は、力強く彼女を見つめる。
｢…私の弟子が、炭治郎が貴方にお世話になりました｣
＿＿ああ、炭治郎少年ですか？こちらこそ、素敵なもの、見させていただいちゃいました。
嬉しそうに、彼女は葉をさらさらと揺らす。
意を決したようにさらに続ける。
｢そこで、貴方にお願いしたいことがございます。
＿＿＿どうか、あいつの、…炭治郎のことを見守ってはくださいませんか。此処からでなく、もっと近くで。｣
ぶわりと、一瞬風が強く吹く。
あたりが、急に静まり返る。
＿＿＿＿と、言うと？鱗滝さん、私はどうすればいいのです？
再び彼女の声が響く。
怒りのようなものは無い、純粋に疑問に思ったような声音で問いかけられる。
｢…彼の妹、竈門禰豆子は鬼になりました。然し、人を喰ってはいません。彼女を連れて炭治郎が昼も歩けるよう、貴方を＿＿＿非常に軽い、霧雲杉を使って、禰豆子を入れる箱を作りたいのです。｣
｢無理を申しているのは承知の上です。どうか、炭治郎を見守っては、禰豆子を陽の光から守ってやってはくださいませんか。｣
樹に＿＿精霊に向かって頭を垂れる。
お願いします、と、何度も頭をさげる。
＿＿＿育手は託したい。
＿＿＿誰よりも大きな岩を斬った弟子の行く末を。
＿＿＿人を喰うことをしない優しい鬼の行く末を。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1332人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「鬼滅の刃」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
病空ナユ(ワイルドくん大好き)(プロフ) - 更新頑張ってください！...エボット山は？ (2020年12月5日 14時) (
レス) id: dcfdc7bef4 (このIDを非表示/違反報告)
リア - 面白くて思わず夜中なのに一気読みしてしまいました...これからも更新頑張ってくださいね！ (2020年11月4日 23時) (レス) id: bba845c06e (このIDを非表示/違反報告)
ゆう(プロフ) - 更新頑張ってください！！！ (2020年9月15日 0時) (レス) id: de93f0d8c4 (このIDを非表示/違反報告)
63:927393(プロフ) - 更新再開有難う御座います！！！！待ってました！全然ゆっくりでいいので！待ってます！(？)更新頑張ってください、大好きです！！ (2020年6月30日 19時) (レス) id: 31c0c007b1 (このIDを非表示/違反報告)
ただのアニメ好き☆(プロフ) - 初めて読ませて頂いた時にどハマり致しました！これからも沢山たっくさん！応援致しますので！ご無理をなさらずに更新頑張ってください！心から応援しています！ (2020年6月18日 1時) (レス) id: 4ee9350697 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：野菜炒め | 作成日時：2019年9月16日 22時
