睡眠恐怖症:br ページ9
時刻は、もう深夜もとっくに過ぎた頃。今日の配信を閉じて、僕の大好きな彼女がいる部屋に向かって、一目散に走っていった。そのままの勢いでAの膝元にダイブし、両太ももに顔を埋める。
「Aー！ねむーい！」
頭の上から小さく笑う声が聞こえて、僕の頭の上に温かみを感じた。さらさらと遊ばれる髪の毛の感触がくすぐったくて、寝返りをうつようにして、顔をAの方に向ける。
「…えっへへぇ。僕、幸せ者だねえ」
「んふふ、かわいい」
夜も更けて、いい子はみんな寝る時間。明日は午前中から撮影があるから、早めに寝なきゃいけないんだけど…。その前に、僕にはやらなくちゃいけないことがある。
しばらく弄ばれるままにしていると、何の前触れもなく、すっとAの手の動きが止まった。見上げると、彼女は規則正しい寝息をたてている。
「…よかった。今日もちゃんと効いたんだね」
呼びかけても反応はない。しっかりと眠っていることを確認して、起こさないように、そーっと腕から抜け出した。Aをベッドまで運んで降ろした後、僕も同じベッドに横になる。これが、僕の毎晩のやらなくちゃいけないこと。
「おやすみ、A」
付き合って数ヶ月。既に何度も同じベッドで寝ているけれど、彼女からおやすみを言われたことは、ただの1度もない。
理由は単純。僕よりも早く、Aが寝てしまうから。でも経緯はちょっと複雑。Aは、ふとした瞬間に気絶するように眠ってしまうくらい、強い睡眠薬を飲まないと眠れないから。
ご飯の後に薬を飲ませて、配信の間は好きなことをしててもらう。数時間ほど配信をすると、ちょうど薬が効き始めるくらいの時間。充電切れのようになったAを、きちんとベッドで寝かせて、僕も一緒に眠る。これが日常。
こうでもしないと、Aは眠ってくれない。
Aは、睡眠恐怖症だから。
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作者名：ピースラワー | 作成日時：2024年4月14日 19時
