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「ちゃんと終わって良かった…イベントもいい感じに形になってきたね」
なかむが安心しきった表情で私を見る。
「無駄に心配かけちゃったみたいでごめんね」
「Aが無事でいるのが何よりだよ。さ！今日はまだまだこれから！まずはどこから行こっか？」
上りの時と同じように、なかむを先頭に東京タワーを降りていく。同じように降りていけば問題なく下まで辿り着くだろうと考えていた。
この考えが甘かったことは後にすぐ判明する。
なかむが私の気を紛らわすために、ずっと喋りかけてくれているのだが、上りと下りではなかむが視界を占める割合が変わってくる。要するに下りの方が私が上にいるため、どうしても外が目に入ってしまうのだ。
これは私が高所にいるという事実をつきつけるには、十分すぎる景色だった。
嫌でも引き起こされる記憶。普段は封じ込めている、私の根底を占める部分。足を攫われた瞬間、器官に入り込んでくる水の感覚、あげることのできない声。いち早く気づいたなかむが伸ばした手を、どうしても掴むことができなかった。そして。
川から放り出された瞬間の、果てしなく下に見えた地面。
それらが今の景色と重なり、私を混乱の渦へと突き落とした。足に上手く力が入らない。なんとか手すりを掴んだものの、すっかり両足は使い物にならなくなってしまう。私はその場で膝から崩れ落ちるようにして倒れ込んだ。
「…っ……ひゅ、は…はあっ…はっ…！」
「A！まずい…！」
呼吸がままならなくなってきた私を、なかむが一瞬躊躇う素振りを見せた後、無理やり背負う。
「目、きちんと閉じて。もうすぐ着くから。ゆっくり息して。大丈夫だよ」
「ひゅーっ…ひゅーっ…なっか、む…！」
とにかく無我夢中でなかむの首に手を回す。あまり外では彼の活動名を言わないように意識していたのに、もうそんな余裕は私には残っていなかった。
頭がぐらぐらして涙が止まらない。恐怖と嗚咽で息が苦しい。咳き込む度に内臓ごと吐き出してしまいそうになる。
そんな頭の中に、彼の、なかむの声が優しく響いてきた。
「はいゆっくり吸ってー……吐いてー……そう、そう…もう1回……すー…はー…」
上下するなかむの肩に、私の呼吸をゆっくりと合わせていく。上手く働かない頭で、ただひたすらなかむと深呼吸をすることだけを考える。
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作者名：ピースラワー | 作成日時：2024年4月14日 19時
