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目を覚ましてから目に入ったのは、あまり見覚えのない天井だった。上手く働かない頭で、しゃけの家に来ていたことを思い出す。となると、ここはしゃけのベッドなんだろう。
ゆっくりと体を起こして、辺りを見回した。視界の先には、私に背を向けて座っているしゃけ。先程から聞こえていたピアノの音は、彼の方から聞こえているようだった。
「…しゃ、け？」
「A…？」
彼はぴたっと手を止めて、こちらを振り返った。急いで椅子から立ち上がると、私のそばまで駆け寄ってくる。
「A？Aっ…？」
怯えた表情で、私の頬に手を添える。今にも目いっぱいの涙を貯め始めそうな彼を慰めるように、手を伸ばして頭を撫でた。
「ごめん。びっくり、したよね」
「Aが、急に、倒れるから…俺、こわくて」
「ごめんね、ごめんね。言ってなかったもんね」
「A、もう大丈夫か…？」
いよいよしゃけは、両目からぽろぽろと涙を流し始めてしまった。心配をかけさせてしまったのは胸が痛むが、こんなにも気にかけてくれていることが嬉しくて、愛おしくなってしまう。
「大丈夫、元気だよ。だから泣かないで…」
しゃけは両目を擦って、ぐずぐずと鼻をすすった。
「…どっか具合悪かった？無理させた？」
「ううん、体はどこも悪くないよ」
「さっきの、言ってなかったってなんのこと…？」
「…ちょっと、馬鹿にされるかもしれないんだけど」
「絶対しない。聞かせて」
しゃけが、前を真っ直ぐ見据えて、私の手の上に自身の手を重ねる。きゅ、と弱々しく握られて、少しだけ胸が痛くなった。こんなしゃけを見るの、初めて。
「…私ね、外傷恐怖症なの」
「外傷…恐怖症…？」
「あんまり聞かないよね。私以外でこの恐怖症の人会ったことないもん。簡単に言うと、傷とか血とか見るのが怖いってやつなんだけど…」
「っあ…俺、さっき指切ったから」
「だから、ちょっとびっくりしちゃっただけなんだよね」
「いや、ちょっとびっくりには収まってないけど…」
えへへ、と苦笑いしながら、さてどこまで話そうかと迷う。一瞬躊躇ったものの、しゃけに全部聞いてほしい、私の全てを知ってほしいという思いが先立って、気づけば口に出していた。
「あのね、私がこうなったの、ちっちゃい頃のトラウマのせいなんだ」
しゃけが真剣な眼差しで、私を見つめ返す。私も真剣な気持ちで応えたくて、ひとつひとつ言葉を選ぶように話し始めた。
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作者名：ピースラワー | 作成日時：2024年4月14日 19時
