貴方と私の桃源郷【短編集】【中編集】 (ページ3)

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「えっ！？…いやいやいや！だってA高いところ本当に無理じゃ…」

「まあでもしばらく行ってないしね。もしかしたら随分マシになってるかもしれないし。それに…」

隣に座るなかむに、ぐいっと顔を寄せる。

「もしダメでも、昔みたく、またなかむが助けてくれるでしょ？」

なかむは急に目を忙しなく動かしながら、何とか言葉を紡ごうと必死になっているようだった。

「まっ…まあね！Aが無理そうならすぐ俺が助けるし！？幼馴染なめんなよ！」

「ふふっ、何それ」

なんだか落ち着かない様子のなかむが可笑しくて、思わずくつくつと笑い声を漏らす。不貞腐れてしまったのか、なかむは若干口を尖らせながらとにかくそういうことだから、と例の企画書を渡してくれた。

「いい？とにかく絶対に無理はしないこと。俺がついてるとは言え、発作は起こさないに越したことはないんだからね？身体にもメンタルにも支障をきたすし、さらに症状が酷くなったら…」

「大丈夫分かってるよ」

つらつらと説教をするなかむの言葉を遮るように声を上げる。なかむは不満そうな顔をしながらも、これ以上は何も言わないことにしたようだ。

「じゃあ当日駅で集合ね。休憩中に邪魔しちゃってごめん。俺は他のメンバーと企画会議してくるから」

「うん。私も今日の分の編集終わったらもう帰ろうかな。お疲れ様」

「おつかれー」

なかむはひらひらと片手を振りながら、奥の会議部屋へと向かっていった。さて。私も残ってる作業を終わらせなくちゃ。

机の上に置きっぱなしだったマグカップの中身を一気に飲み干して、私は自分のパソコンが置いてある部屋へと足を向けた。

…そういや次の休みは私の誕生日だったっけ。1ヶ月前に出かける約束をしたものだから、すっかり頭から抜けていた。貴重な休日を返上してまでワイテルズのことに時間を割くんだから、なかむにはそれ相応の対価を貰わないとな、なんて思いながらキーボードを叩く。

「…これでよしっと…」

時間が経つのも忘れて作業に没頭していたら、あれから数時間経過しており、窓の外も真っ暗になっていることに気づかなかった。手元の時計で夜8時を過ぎていることを確認し、帰り支度を始める。

このくらいの時間になるとメンバーたちは自宅に帰って配信の準備をしだすため、共用の作業用の部屋の鍵をかけるのは大抵私の仕事になっている。他の部屋をまわって誰もいないことを確認して、私は帰路についた。