勇気、玉砕 ページ3
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× 後輩
『くるまさん、別れたらしい』
誰かが噂をする声を聞いて胸が高鳴る。ついにこの時がきた。
ずっと彼が別れるのを待っていたのだ、なんて言うと人格を疑われてしまうかもしれないが事実なのでどうでもいい。
その噂を聞いて以来、彼と現場が被る事を待っていると、ついに同じ舞台に立つ日がきた。
「おつかれ」
たくさんの芸人が入り混じる楽屋で、彼が来るのを待っていると、明らかに憔悴した様子のくるまさんと、それを慰めるかの様に寄り添うケムリさんがやってきた。お疲れ様です、と近寄ろうとするも他の人達が先にくるまさんに駆け寄ってしまい、近付くことができない。
本当に別れたんですか、女紹介しようか、口々に彼に降り注ぐ言葉に眉間にしわがよるのを感じる。ケムリさんが「まだ傷癒えてないみたいで、そっとしといてやってください」と笑うと、集まっていた人たちは散り散りになっていった。
「くるまさん、ケムリさん、お疲れ様です」
「おつかれ」
「お、Aおつかれ」
そっと、ふたりに近付いて声をかけると笑いかけてくれるので、きゅん、と胸が鳴る。やっぱり好きだ。
「こいつ振られて落ち込んでんの、A慰めてやってよ」とケムリさんが笑うので、つい口から出てしまった。
「くるまさん、私にしませんか」
しん、とあたりが静まり返る。背中に汗が伝うのを感じるが、一度言ってしまったことは取り消せない。
でも、もしかしたら、があると思った。100%ではなくとも、普段から良くしてもらっているから、と。
「Aのこと、そういう目で見た事ないわ」
彼と視線が交わったのは数秒だけで、突き放すような言葉で私との間に壁を作った。ケムリさんが「お前、正直に言いすぎだろ」と、焦る声が遠くに聞こえる。
消えてしまいたい。
そこからのことはあまり覚えていない、どうやって帰ってきたのか。携帯には心配するメッセージが入っていたが、みたくなくて電源を落としてしまった。
自惚れていた。伝えなければよかった。
「明日から、どうすればいいの」
彼の冷たい視線を思い出しては、辛くてベッドに沈み込んだ。
これが夢ならどれほど良かったか。
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作者名：神楽 | 作成日時：2024年2月15日 18時
