桜の花びら十八枚 ページ19
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そんな事を考えていれば急に聞こえた子供の声。どうやら病院に来ていた兄弟のようで水鉄砲を手に燥いでいた。
「おい!こっちに来いよ!」
「あんまり行くとお母さんに怒ちゃうよ!」
「いいからいいから!それー!」
年の近い兄弟が水を掛け合って遊んでいる。どうやら燥ぐうちに裏まで来てしまっていたようだ。
流石子供といったところか、こんな暑い日でも元気に走り回っている。
数分後、遠くから母親らしき人の怒鳴り声が響いた途端風のように去っていた子供達。
『ふふ。元気な子達でしたね』
去って行った子供たちを見送りながらAそう呟いた。そして、視線をスッと下げて自分の脚を見る。自分では立つことままならない脚、辛うじて動かす事が出来るくらい。
Aが急に黙り込んだのが気になった中也はAに視線を移す。彼女の顔は俯いて見えなかったが彼女の視線の先を辿り自身の足を見ていることに気づいた。
___Aは自分の足で地を踏んだ事があるのだろうか?
そんな疑問が浮かんだ。
例えあったとしてもそれは恐らく幼い頃の遠い過去なのではないか。
「A。立ってみるか?」
無意識だった。中也の口から出たその言葉は寂しいそうなAを見て呟いたようなものだ。
中也の言葉にAは俯かせていた顔を上げる。目を見開いて中也を見上げたAに中也は微笑み彼女の前へと移動した。
中也はそっと彼女の両手を取り、軽く引っ張る。だが、Aはその手を引っ張り返して車椅子から離れるのを躊躇った。
『ちゅ、中也さん!?無理です私、立てません!』
「大丈夫だ。」
『やっ!こ、怖いです!』
あまりの拒絶に中也は一旦Aの手を離す。離された手で車椅子の肘掛けをAは強く掴んだ。その手は微かに震えている。
『御免なさい。でも、無理です。』
“立って歩いてみたい”。その気持ちは十分にある。でも、いざやってみようと思うと怖くて仕方がないのだ。
震えているAを見て少し無理矢理だったかと中也は後悔する。
だが、走りまわる子供達を見るAの瞳を見てどうしてもAを歩かせてやりたいと思った。
「A。大丈夫だ。俺がちゃんと支える。だから、少しでいい歩いてみねェか?」
Aの前にしゃがんだ中也。彼のその瞳を見てAは拳を握る。
彼が支えてくれるなら出来るだろうか?
不思議だ。彼の瞳を見たら何だかできる気がしてきた。
Aは中也の顔を見てから、うんと頷く。
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月華桜(プロフ) - リーザさん» コメント有難う御座います!楽しみにして頂けているなんてとても光栄です!これからも応援よろしくお願いします! (2019年5月12日 16時) (レス) id: dc051cccc9 (このIDを非表示/違反報告)
リーザ(プロフ) - コメント失礼致します。いつも月華桜さんの作品楽しみに読ませていただいております。とても綺麗な文章で、更新される度に感動してしまいます。これからも無理のないよう更新頑張ってください。応援しています(´∀`) ( (2019年5月12日 15時) (レス) id: 0dd43e413c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:月華桜 | 作成日時:2019年5月8日 20時