桜の花びら十二枚 ページ13
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ペラペラと頁を捲る音が部屋に響く。
その音は本を読み進めている故の物ではなかった。否、いつもならそうである。だが、今は違う。
私はただ頁をペラペラと動かしながら、視線は本ではなく彼に向いていた。
本を捲る音と別に蛇口から水が流れる音。
黒帽子の彼は水道の前で花瓶の水を入れ替えていた。
数分前、扉の叩音が聞こえ返事をしてみれば来たのは中也さんだった。
私は驚いた。彼が来る日は大体昼頃であり朝のこの時間に彼が此処にいるのが珍しいからだ。
水を入れ替えた花瓶に新しい花を入れ替えて彼はそれを近くのベッド脇の台にコトリと置いた。
昨日、中也さんと私は世間一般でいう“恋仲”という関係になった。
正直云ってまだ夢なのではないかと疑ってしまう。恋人なんて病気持ちの私には一生出来ないと思っていたから。
花瓶の花を整える中也さんの横顔を盗み見ていれば彼はふと此方に振り返ったので慌てて視線を本に戻した。
「花なんか飾った事ねぇから判んねェが、こんなもんでいいか?」
『は、はい。』
花瓶から離れた後でも中也さんは椅子に座り花瓶の花を見ていた。
そんな彼に私はもう一度視線を向ける。
『(___こんな素敵な人が恋人……。)』
私を外へ連れ出した時、中也さんの云ってくれた言葉が嬉しくて胸が暖かくなった。
大きく空いていた穴が埋まったような感覚。
そして、初めての接吻。
心臓が煩いくらい高鳴ってまるで発作を起こしたよう。でも、いつもの発作と全然違う。感情が胸を騒ぎ立てるように溢れ出すあの感覚はとても心地よい。それと同時に感じる熱。
「恋」とはこんなにも素敵な事なんだな。
「おい、俺の顔になんか付いてんのか?」
急に耳に入ってきた声に意識が戻る。
気づけば中也さんが私の顔を不思議そうに覗いていた。私はというと中也さんを見ながら此間のことを思い出していたようで、急に恥ずかしくなった。
『い、いえ!すみません。ボーッとしてました……』
苦しい云い訳をしながらも視線を逸らす。
変に思われただろうかなんて思っていれば、スッと此方に伸びてきた手。
「如何した?顔が赤ェぞ?」
黒手袋をはめた手がスルリと私の頰を撫でた。
再び高鳴る心臓。顔に溜まる熱。
嗚呼、まただ。私はまた彼にドキドキしている。
『大丈夫……です。』
私の口から出た言葉はそれだった。
だが彼は私が暑いと思ったのか椅子を立ち上がり窓を開けた。カーテンを揺らして入ってきた風が私の熱くなった頰を冷やす。
自分の頰を触れば本当に熱を帯びていて熱かった。
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月華桜(プロフ) - リーザさん» コメント有難う御座います!楽しみにして頂けているなんてとても光栄です!これからも応援よろしくお願いします! (2019年5月12日 16時) (レス) id: dc051cccc9 (このIDを非表示/違反報告)
リーザ(プロフ) - コメント失礼致します。いつも月華桜さんの作品楽しみに読ませていただいております。とても綺麗な文章で、更新される度に感動してしまいます。これからも無理のないよう更新頑張ってください。応援しています(´∀`) ( (2019年5月12日 15時) (レス) id: 0dd43e413c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:月華桜 | 作成日時:2019年5月8日 20時